ケミカルリサイクルとは?主な手法や注目される背景、メリット・デメリットも解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューション資源循環

最終更新:2025.02.18

ケミカルリサイクルとは?主な手法や注目される背景、メリット・デメリットも解説

ケミカルリサイクルは、廃棄された資源を化学的に分解し、新たな原料として再利用する方法。近年、特に欧州では廃プラスチックの処理方法として注目されています。この手法は、汚染されたプラスチックも再生できるため、環境保護の観点からも期待されていますが、いくつか課題もあります。本記事では、ケミカルリサイクルの手法や他のリサイクル方法との違い、メリット・デメリットを紹介します。

ケミカルリサイクルとは?

ケミカルリサイクルのイメージ画像
ケミカルリサイクルとは、溶剤や触媒などを使って廃棄物を化学的に分解し、再び原料として利用する方法です。代表的な例として、廃プラスチックをモノマーやガスなどに分解し、新しい製品の原料として再利用するプロセスがあります。この方法は、従来のリサイクルでは再利用が難しい材料にも適用でき、高品質な再生材料の製造が可能です。

2022年には、廃プラスチック約717万トンのうち、約3%にあたる約28万トンがケミカルリサイクルされました。    

ケミカルリサイクルと他のリサイクルとの違い

いろいろなリサイクル資材
リサイクル方法は、ケミカルリサイクルの他にマテリアルリサイクルとサーマルリサイクルがあります。それぞれの方法とケミカルリサイクルとの違いをみてみましょう。    

マテリアルリサイクルとは?ケミカルリサイクルとの違い

マテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル)とは、廃棄物の物質的な特性を変えずに「物」から「物」へと再利用するリサイクル方法です。代表例として、プラスチックを高温で溶かし、新しいプラスチック製品を作る方法があります。

ケミカルリサイクルは廃棄物を化学的に分解して原料まで戻し、新たな製品を作るのに対し、マテリアルリサイクルは廃棄物を粉砕して、再び同じ用途の製品や部品の原料として再利用する点が異なります。また、化学分解の過程でエネルギー消費量が多いケミカルリサイクルに比べ、マテリアルリサイクルはリサイクル過程でのエネルギー消費、すなわちCO2の排出量を抑えられるのが特徴です(*)。2022年には、廃プラスチックの約22%がマテリアルリサイクルで処理されました。

*ケミカルリサイクルは化学分解の過程でのエネルギー消費量が多く、その使用するエネルギーを生み出す際に発生するCO2を考慮すると結果的にCO2排出量が多くなります。

サーマルリサイクルとは?ケミカルリサイクルとの違い

サーマルリサイクルとは、廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収し、電力や温水などに利用する方法です。代表例として、焼却施設でのエネルギー活用が挙げられます。

ケミカルリサイクルが廃棄物を化学的に分解して原料まで戻し、新たな製品を作るのに対して、サーマルリサイクルは廃棄物を高温で燃焼させ、その際に発生する熱エネルギーを回収・利用する点が異なります。サーマルリサイクルは焼却時にCO2などの排出があり、環境負荷がかかるという課題もあります。

2022年度には、廃プラスチックの63%にあたる510万トンがサーマルリサイクルで処理されました。

参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識」    

ケミカルリサイクルの代表的な手法

処理場でリサイクルされるプラスチック
ケミカルリサイクルにもさまざまな手法があります。ここでは、廃プラスチック処理において、ケミカルリサイクルの代表的な5つの手法について解説します。

手法①原料・モノマー化

原料・モノマー化は、使用済みのプラスチックを分子レベル(モノマー)に分解し、再利用する手法です。プラスチックはモノマーが結びついて形成されており、使用済みPETボトルをモノマーまで分解することで、新たなPETボトルを製造することが可能です。

また、プラスチック以外にも、食品廃棄物を酵母や乳酸菌を用いて発酵処理し、家畜飼料の原料として再利用する方法もあります。

手法②高炉原料化

高炉原料化は、廃プラスチックを還元剤として利用する技術です。通常、製鉄所では鉄鉱石をコークスで還元して銑鉄を製造します。廃プラスチックの主成分である炭素と水素を利用し、コークスの代わりに高炉で還元剤として活用することが可能です。この方法により、廃プラスチックを有効に再利用できるだけではなく、コークスの使用量を削減し、環境負荷を軽減する効果も期待されています。

手法③コークス炉化学原料化

コークス炉化学原料化は、廃プラスチックを石炭の代替品として利用し、熱分解によって再資源化する手法です。コークス炉内でプラスチックを加熱し、燃焼させずに炭化させることで、炭化水素油、コークス、コークス炉ガスが生成されます。

この方法は、有害物質の排出が少なく、既存の製鉄所の設備を活用できる点や、大量の廃プラスチックを処理できる点が特徴です。

手法④ガス化(化学原料化)

ガス化は、廃プラスチックを高温で分解し、化学原料として利用できる合成ガスを生成する手法です。

まず、低温ガス化炉で廃プラスチックを一酸化炭素、水素、炭化水素、チャー(炭化固形物)などに分解し、その後高温ガス化炉で蒸気と反応させ、一酸化炭素と水素を主体とした合成ガスに変換。最終的に、水素、メタノール、アンモニア、酢酸などの化学工業原料が生成されます。

プラスチック以外には、畜産糞尿を微生物で分解してガス化するバイオガス化もあります。

手法⑤油化

油化は、プラスチック廃棄物を無酸素状態で加熱し、生成油(炭化水素油)を製造する技術です。塩素分を除去し、残りの炭化水素を熱分解することで、軽質油・中質油・重油の3種類が得られます。これらの生成油は、燃料やプラスチックの原料として再利用可能です。ただし、実用化にあたって事業規模の確保、高コストの軽減等の課題も少なくありません。

ケミカルリサイクルが注目される背景

処分場に集められた廃プラスチック
廃プラスチックの処理が世界的に問題になっている中、ケミカルリサイクルが注目されています。その背景を解説します。    

廃プラスチック輸出規制と国内リサイクルの必要性

2017年以降、中国や東南アジアで廃プラスチックの輸入禁止が進み、2021年にはバーゼル条約改正附属書が発効し、汚染された廃プラスチックの輸出が規制されました。これを受け、各国は国内でのリサイクル体制整備に注力。欧州では再生プラスチックの需要が急増し、2025年までに使用量を1000万トンに倍増させる目標を掲げています。

2022年、日本の廃プラスチック輸出量は約56万トン、輸出取引価格は66.5円/kgで、2017年の41.7円/kgと比較して上昇傾向にあります。大手企業はケミカルリサイクルの商業化に向けた実証プラントの建設を進め、リサイクルの動きが活発化しています。

マテリアルリサイクルの技術的課題を補う

マテリアルリサイクルは資源循環に優れた手法ですが、いくつかの課題を抱えています。特に、混合プラスチックの分解や廃プラスチックの汚れの除去は技術的に難易度が高く、食品や飲料用のプラスチックには再利用できない場合が多いため、再生材の用途が限られてしまうことも。また、再生を繰り返すと品質が低下し、純素材を多く投入する必要が生じるため、コストと品質のバランスが取れなくなることもあります。

こうした課題に対処できるケミカルリサイクルが注目されており、より効率的な資源利用が期待されています。

ケミカルリサイクルのメリット

ペットボトルのリサイクル
ケミカルリサイクルは、廃プラスチックのリサイクル対象が広く、さまざまなものに有効活用できるのがメリットです。具体的にみていきましょう。    

バージン材と同等な品質にリサイクルできる

原料・モノマー化の手法によって得られた再生材は、バージン原料と同等の高い品質を保つことができます。この技術を活用すれば、マテリアルリサイクルが難しい汚染されたプラスチックや臭いのあるプラスチックもリサイクル可能です。そのため、衛生面で適さないとされていた食品用途の製品にもリサイクルができるという特徴があります。    

リサイクルできる廃プラスチックの対象が広い

ケミカルリサイクルは、さまざまなプラスチックをリサイクルできるという大きなメリットがあります。異物が含まれているものや汚染されたもの、異なる種類のプラスチックから成る混在プラスチックも、さまざまなものへとリサイクルが可能です。この技術により、他のリサイクル方法では困難であった廃プラスチックを食品用途で使用できるようになるなど、リサイクルできる対象や製品として再生できる範囲が広がります。

資源を有効活用できる

ガス化によって、廃プラスチックは水素、メタノール、アンモニア、酢酸などに分解され、化学原料として有効活用されています。これらの生成物は、製鉄所の還元材や油、可燃性ガスとして利用可能です。

化石燃料から作られる化学原料をリサイクルによって生み出すことで、資源の節約が実現され、持続可能な社会の実現に寄与します。

ケミカルリサイクルのデメリット・課題

リサイクル施設の外観
ケミカルリサイクルは、コストやエネルギー消費、添加物の処理などいくつかの課題があり、導入が進まないという現状があります。    

コストが高い

ケミカルリサイクルはマテリアルリサイクルよりも多くの処理量を想定した大規模生産となるため、処理量の少ないマテリアルリサイクルと比較すると、一般的には、初期の設備コストが高くなります。

一方で、マテリアルリサイクルは大型プラントを必要とせず、コストを抑えることができるため、経済的な面での優位性があります。このように、リサイクル手法の選択には、コストの観点も重要な要素となります。

エネルギー消費量が多い

ケミカルリサイクルとして廃棄物を化学的に分解して、有用な化学物質を得る方法は大きく2つの方法があります。熱を使って分解する方法(熱分解)、元の小さな素材に戻す方法(解重合反応)があり、廃棄物の種類や得たい物質により適切な反応条件や装置を選択します。熱分解や解重合反応は、いずれも熱を加える必要があり、マテリアルリサイクルと比べると多くのエネルギーを消費することがあります。
この課題を解決するために、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使う方法が考えられています。例えば、水素を作る時にこのような再生可能エネルギーを使うことで、CO2の排出を減らしてリサイクルをすることが可能です。

プラスチック添加物の処理が困難

プラスチックには、難燃剤や紫外線吸収剤など、性能向上のためにさまざまな添加物が使用されています。しかし、これらの添加物が焼却されると、ダイオキシンなどの有害ガスが発生する危険性も。このため、プラスチック添加物の処理には高度な技術が必要となり、それが設備投資やランニングコストにも影響を与えます。

ケミカルリサイクルの課題解決で循環型社会を目指そう

プラスチックのリサイクル
世界的な再生プラスチックの需要の高まりを背景に、ケミカルリサイクルに関心が集まっています。コストやエネルギ-消費、添加物処理といった課題はありますが、ケミカルリサイクルには大きな利点があります。廃プラスチックのリサイクル対象が広く、これまで再利用が困難だった素材の有効活用が期待できます。

循環型社会の実現に向けて、これらの課題を乗り越えるために新たな技術も日々開発されています。多様なプラスチックや廃棄物を資源として捉え直すことで、持続可能な社会の実現に貢献します。

リサイクルシステムの大規模な変更には時間とコストがかかり、物流や産業構造の変革も必要です。より効果的な資源循環を実現するには、複数のリサイクル方法を組み合わせることが重要です。
監修:道明 太郎(三井物産株式会社)

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