Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション抑制・回収・吸収

最終更新:2022.09.26

海運業界の環境課題解決にAIで挑むBearing社

三井物産が出資している米国のBearing(ベアリング)社は、海運業界向けにAIソリューションを提供するスタートアップ企業。2019年の設立ながら、その高い技術力により画期的なサービスを次々と展開しています。船舶の燃費改善を通して脱炭素化を進めるそのサービスの特徴と魅力に迫ります。

脱炭素社会の実現に向け、海運業界では2023年1月より、船舶の燃費実績を格付けする「CII:Carbon Intensity Indicator」制度がスタートします。それに先駆けてBearing社からローンチされた「CII オプティマイザー」は、AIを活用することで高精度かつリアルタイムに燃費及び格付けを予測するサービス。また、その先にはAIによる燃費最適化航路の提案サービスも見据えています。海運業界のDX化を通して脱炭素社会の実現を目指す三井物産とBearing(ベアリング)社の取組みについて、モビリティ第二本部の服部大毅さんに話を聞きました。

海運業界の環境課題解決を目的とし、AIソリューションの開発をスタートしたBearing社

――Bearing社との取り組みがスタートしたきっかけを教えてください。
服部 弊社は、AI(人工知能)の権威として知られるスタンフォード大学のアンドリュー・ン(Andrew Ng)教授が立ち上げたAIファンドに出資参画し、戦略的パートナーとなっています。
AIファンドがどのような事業に投資するべきかを議論するなか、来日したアンドリュー氏に、三井物産からAIを活用した様々な事業領域のビジネスプランのプレゼンをおこないました。その結果、海運業界が面白いとの結論に至りました。海運業界では、燃料費が海上輸送コストの約半分を占めており、その額は年間10兆円に及びます。またAIの活用が進んでおらず、燃料費の削減余地が大きいと判断したわけです。これをきっかけとしてBearing社が設立され、AIファンドと三井物産の共同出資に至りました。
――Bearing社とはどのような会社なのでしょうか。
服部 Bearing社は2019年設立のスタートアップ企業であり、従業員が20人程度の会社ですが、10年以上にわたってIT業界をけん引してきたCTOを中心に、そのほとんどがAIエンジニアで構成されています。後述する高度なAIソリューションを開発することができる技術者集団であることが最大の特徴であり、2021年版のForbes「AI50(TOP AI FIRMS TO WATCH)」にも選出されています。

船舶の燃費を分析する「パフォーマンス・アナリシス」

――さまざまな研究開発がおこなわれていると思いますが、すでにローンチしているサービスについて教えてください。
服部 ひとつは「パフォーマンス・アナリシス」といって、船舶の性能を解析するサービスです。航海においては、波風や海流に加え、船底の汚れなどが燃費に影響します。「パフォーマンス・アナリシス」は、これらの要因がどの程度燃費に影響しているかを、Bearing社のAI技術を用いて分析するサービスです。
――船底の汚れや塗装の状態が燃費に与える影響も可視化できるということですか?
服部 はい。船舶は「ドライドック」と呼ばれる定期検査で船底のクリーニングをおこない、その直後が最も燃費が良い状態です。その後、航海を進めるうちに船底が汚れ、これによって燃費が悪化します。Bearing社の分析により、船底の状態が燃費に与える影響を可視化できるようになりました。これも「パフォーマンス・アナリシス」の特徴のひとつです。
――今後は、船底の汚れに応じて定期検査(ドライドック)の時期を調整するということでしょうか?
服部 いえ、基本的には5年の間に中間検査と定期検査が実施され、その時期は決まっています。ドライドック以外に、停泊時にダイバーによる簡易的な船底クリーニングを行う方法があるのですが「パフォーマンス・アナリシス」を利用すれば、船底のクリーニング費用と燃費改善効果を試算し、費用対効果の観点からそれをおこなうべきか判断するといったことが可能になります。
――なるほど。それら分析に用いるデータはどのようなものでしょうか?
服部 航海中の船舶は、毎日正午に「noonレポート」と呼ばれる日次報告書を陸側に提出します。そこには、燃料消費量・船速・船位・風速・プロペラの回転数などのデータが記録されています。noonレポートを陸側にメール送信する際に、Bearing社にもcc.で同レポートを送信いただくことで、これらのデータを確認し、気象情報などを組み合わせて分析をおこないます。

燃費と「CII」格付け予測を行う「CIIオプティマイザー」

――「パフォーマンス・アナリシス」により、航行中の船舶の燃費実績が見えるというわけですね。もうひとつのサービスはどのようなものでしょうか?
服部 はい。もうひとつの「CII オプティマイザー」は、現時点の燃費実績の表示と、年間での燃費予測をAIを用いておこなうサービスです。
海運業界では、2023年1月より船舶の燃費実績を格付けする「CII: Carbon Intensity Indicator」制度が開始されます。船舶ごとに1年間の燃費実績をA~Eの5段階で評価するもので、E評価または3年連続D評価となると、改善計画書の提出が義務付けられる制度となっています。「CII オプティマイザー」では、燃費の分析結果も利用しながら、年間の燃費およびCIIの格付け予測を行います。
――海運業界にも本格的な脱炭素の動きが出てきたということですね。
服部 国際海事機関(IMO)は、2018年に温室効果ガス削減戦略を策定しました。国際海運のGHG排出量を2030年までに40%削減(2008年比)、2050年までに50%削減(2008年比)、今世紀中なるべく早期の排出ゼロを目標としています。また、この目標を達成するために、既存船のエネルギー効率指標(Energy Efficiency Existing Ship Index:EEXI)と、燃費実績の格付け制度(Carbon Intensity Indicator:CII)の導入が採択されています。EEXIは船舶の燃費性能を事前に検査・認証するもので、CIIは実際の運航における燃費実績を格付けするものです。
――「CII」を改善するためには、どのようなことが必要になるでしょうか?
服部 「CIIオプティマイザー」では、1月から現時点までの燃費実績の表示だけでなく、1年間の燃費と格付けの予測をおこないます。燃費を改善するためには船速を下げて航海する、燃料を代える、船底のクリーニングをおこなうなどの方法が考えられます。何をすればどの程度燃費が改善するかについて、「CIIオプティマイザー」ではシミュレーションが可能で、複数の運航シナリオを計画することができます。
――競合他社によるサービスとの違いはどういったところにあるのでしょうか?
服部 年間を通した燃費と格付けの予測を、高精度かつリアルタイムにできることです。CIIは年間の燃費実績に基づき格付けされ、1/1~12/31の燃費がその対象となります。「CIIオプティマイザー」では、船上に専用機器を取り付ける必要もなく、「noonレポート」を送付いただくだけで、高精度かつリアルタイムで年間の燃費予測が可能であり、その手軽さも魅力のひとつになっています。
――船種を問わず、90%以上の高い精度で燃費予測ができるとのことですが、これだけの精度を出せるのはなぜでしょうか?
服部 AIを使わない従来の燃費予測の精度はばらつきもあり、平均で80%台といったところでした。しかし、Bearing社の燃費予測は、精度のばらつきがほとんどなく90%以上の精度で燃費予測が可能となっています。Bearing社のサービスは、70以上の変数を用いて構築されたディープラーニングモデルがベースとなっており、これをモデリングできるAIエンジニアの高い技術力が最大のポイントだと思います。

燃費最適化航路をAIが提案する「スマート・ルーティング」を開発中

――「CII オプティマイザー」は、高精度かつリアルタイムで燃費予測ができるわけですね。燃費予測ができれば、例えば荒れた海域の航海を避けるなど、航路を変えることによって燃費を「改善」することもできそうです。
服部 現在、燃費を最適化する航路をAIが提案する「スマート・ルーティング」を開発中で実証実験をおこなっているところです。自動車では、目的地までの最短ルートや、渋滞情報に基づく迂回ルートを提案するカーナビゲーション・システムがありますが、その船舶版のようなイメージです。
――ほかのサービス同様、AIによる高精度化を図るということでしょうか。
服部 ルーティングサービスはすでにいくつかありますが、燃費の最適化という観点で精度を上げていく余地はあると思っています。また、気象の変化などに合わせて最適なルートを提案するリアルタイム性も重要だと考えています。Bearing社で開発中の「スマート・ルーティング」サービスでは、AIを活用し、燃費を最適化する航路を高精度にリアルタイムで提案することができるようになります。

AI技術を起点に、船舶・海運DXによる脱炭素化に挑む

――CIIの導入など脱炭素化への動きが加速しているようですが、改めて海運業界の現状を教えてください。
服部 航海時のCO2排出は、その大半が燃料使用によるものです。冒頭でお伝えしたとおり、海上輸送にかかるコストの半分は燃料費であり、業界全体で年間約10兆円の燃料が使用されています。つまり、燃料消費を抑えることが運航コストの低減になると同時に、CO2排出量を抑えることにつながりますので、燃費の改善は海運業界の重要な課題のひとつになっています。実際に「パフォーマンス・アナリシス」「CIIオプティマイザー」は、国内外の海運会社にご利用いただいております。
――今後、海運業界以外にもサービスの利用者は広がっていくと予想されますか?
服部 現在は海運業界を対象としていますが、脱炭素化はすべての業界で重要な課題となっており、関係する業界が脱炭素の観点からBearing社のサービスを利用することがあるかもしれません。例えば、企業はGHGプロトコルが定めるサプライチェーン排出量(Scope1・2・3)を算定し、報告することが求められています。その中には、製品の輸送時におけるCO2排出量も含まれており、この観点から、貨物または荷主単位で海上輸送におけるCO2排出量を算定することができれば、これらのサービスが物流全体に広がっていくことも考えられます。
――最後に、Bearing社および三井物産が目指すところはどこでしょう。
服部 当初は海運業界でAIの活用が進んでいないことに注目したわけですが、船舶・海運DXは、陸上に比べるとまだまだ遅れている状況です。Bearing社のAI技術の特徴である「高精度」「リアルタイム」「手軽さ」を軸に、船舶・海運業界に革新的なサービスを提供していきたいと考えています。さらに、三井物産の総合力を発揮することで、船舶・海運に関連する業界、ひいては社会全体に脱炭素化の動きを拡大し、脱炭素社会の実現を目指してまいります。
――本日はありがとうございました。

三井物産株式会社
モビリティ第二本部 輸送機械第四部 新規事業開発室
服部大毅

2006年東京海上日動火災保険入社。様々な業界向けの国内法人営業を担当。2018年に退職し、香港科技大学のビジネススクールに入学。ビジネススクールではAI・Big Data Analytics等のデジタル関連の授業も複数受講。2020年三井物産入社。LNG船の管理や投資を経験後、2022年4月より新規事業開発室で船舶DXを担当。

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