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コラム

最終更新:2024.03.21

企業による気候変動への取り組みを推奨するTCFDとは?

TCFDは、気候変動に対応するための企業の取組や情報開示を支援する枠組みです。
2017年に最終報告書を公表し、気候変動関連リスクと機会について、4つの項目を基本に、開示すべき情報やシナリオ分析の方法を示しました。

この記事では、TCFDについて詳しくまとめます。

そもそもTCFDとは?

TCFDとは、「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことを指します。「タスクフォース」とは、緊急性の高い特定の課題に取り組むための特別チームのことです。

TCFDは、G20からの要請をうけた金融安定理事会(FSB)が、2015年12月に設置しました。金融安定理事会は、世界各国の中央銀行や国際金融機関などによって構成され、国際金融に関する措置、規制、監督などを通じて国際金融の安定化を図る組織です。

企業の経済活動には、財務情報などからは判断できない気候変動のリスクがあるため、気候変動への影響を踏まえた経営計画を立て、開示することが求められています。

TCFDが公表した2017年6月の最終報告書では、企業活動などによって生ずる気候変動に関するリスクや機会について「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目を開示することを推奨しています。
これらの項目については、次で詳述します。

また、TCFD提言に対する実際の企業活動の開示状況をまとめたステータスレポートを、2018年から2023年までより毎年公表しました。

TCFDが情報開示を推奨する内容とは?

2017年6月の最終報告書「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」では、TCFDは以下の4つの項目について、組織運営における中核的要素として情報開示を推奨しました。
・ガバナンス(Governance)
・戦略(Strategy)
・リスク管理(Risk Management)
・指標と目標(Metrics and Targets)
企業における「ガバナンス(Governance)」とは、その企業の健全な経営のために行う、企業自身の管理体制です。

気候関連リスクと機会をガバナンスに反映するには、取締役会や経営者を含めた体制作りが必要です。
・気候関連の担当役員や委員会が設置されているか
・気候課題に関連する組織構造
・気候関連の課題が取締役会や経営者に報告される手順や頻度
・取締役会が意思決定をする際に気候関連の課題や目標を把握・考慮しているか
「戦略(Strategy)」では、以下のような組織の事業・戦略・財務への影響がある重要情報は、開示が求められます。
・重大な財務影響がある、短期、中期、長期それぞれの気候関連課題や、課題を特定するプロセス
・特定した気候関連課題が事業、戦略、財務に与える影響
・営業収益、費用、設備投資、買収、売却、資金調達の各分野における気候関連課題の影響
・「2℃目標」等の気候シナリオを考慮した、組織戦略の強靭性
「リスク管理(Risk Management)」では、以下のような情報の開示が求められます。
・気候変動に関連した規制要件の現状と見直しなど、リスク識別、評価のプロセス
・気候関連リスクの優先順位などのリスク管理のプロセス
・組織全体のリスク管理における、気候関連リスクの統合状況
「指標と目標(Metrics and Targets)」では、以下のような情報開示が推奨されます。
・組織が戦略、リスク管理に則して用いる指標。指標は経年変化が分かるようにし、計算方法も開示
・温室効果排出量。GHGプロトコルに従い算出したGHG排出量。計算方法など。
・リスクと機会管理上の目標と実績
情報開示 具体的内容
ガバナンス a) 気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する
b) 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する
戦略 a) 組織が識別した、短期・中期・ 長期の気候関連のリスク及び機会を説明する
b) 気候関連のリスク及び機会が組織のビジネス・ 戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する
c) 2℃以下シナリオを含む、さまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明する
リスク管理 a) 組織が気候関連リスクを 識別・評価するプロセスを説明する
b) 組織が気候関連リスクを 管理するプロセスを説明する
c) 組織が気候関連リスクを 識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する
指標と目標 a) 組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する
b) Scope1、Scope2 及び当てはまる場合は Scope3 の温室効果ガス (GHG)排出量 と、その関連リスクについて開示する
c) 組織が気候関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する
以上の「提言」に加え、それぞれの情報開示のために「ガイダンス」が作成・公開されています。

TCFDでは産業及びグループを、銀行・保険会社・資産所有者・資産管理会社の4業種からなる「金融セクター」と、エネルギー、運輸、素材と建築物、農業・食材・林業製品からなる「非金融セクター」に分類しています。

「全てのセクターへのガイダンス」に加え、各業種に向け「特定のセクターへの補助ガイダンス」も公開されています。TCFDのガイダンスは経済産業省のHPから概要をダウンロードでき、またTCFDのHPでPDFのダウンロードが可能です。

TCFDが推奨するシナリオ分析とは?

シナリオ分析は、気候関連リスク及び機会を評価するうえで、重要な役割を果たします。
気候変動の長期的な動きや、その影響を予測する、さらに気候変動の物理的・移行的リスクが、ビジネス戦略や財務業績に与える影響について理解を深めるために、シナリオ分析を行います。

気候変動が深刻化した場合などの状況を想定し、それぞれの条件で結果を推定、事業計画を立てておくと、状況の変化に対応できます。

ここからはシナリオ分析について詳しくまとめます。

シナリオ分析の意義

気候変動は社会、経済に大きな影響を与えます。気候関連リスクは、低酸素社会への移行に関する「移行リスク」と、気候変動による物理的変化に関する「物理的リスク」に大別されています。
移行リスクはさらに「政策・法規制リスク」「技術リスク」「市場リスク」「評判リスク」に、物理的リスクは「急性リスク」と「慢性リスク」に分類されています。
これらのリスクが自身の業種にどのような影響を与えるかを把握することで、気候変動の影響に対応できます。


また、気候変動によって新たに必要とされるサービスや社会システムが生まれる可能性があります。
こうしたビジネスの機会を把握しておくと、長期的な戦略を立てることができます。

シナリオ分析の方法とは?

まず、組織内に気候変動に関するシナリオ分析を行うための体制を作り、責任者を任命します。責任者を中心に、各所との連携方法や、進め方を決定します。

次に、気候変動により組織に関連の深い技術や原材料、制度、重要度の高い地域において、どのような影響があるかを洗い出します。
具体的には、組織内の様々な立場の人から意見を募るなどの方法があります。
それぞれのリスクが将来的に与える影響について検討し、重要度に沿って整理していきます。

さらに評価したリスクや機会を基に、望ましいシナリオと望ましくないシナリオの両方を複数想定し、将来的な結果を予測します。シナリオに関しては、独自に作成する場合と、既存の外部シナリオを引用する場合があります。

日本におけるTCFDの取り組み事例

日本はTCFDの取組が非常に進んでおり、日本政府はTCFDに基づいた情報開示の取り組み方についてまとめたガイダンスを世界で初めて作成しました。

日本では1,470もの企業・機関がTCFDに賛同し、情報開示に協力的な姿勢を見せています。これにより、気候変動に対する取り組みを、投資家や金融機関にアピールする材料になります。
2023年10月12日時点では、世界全体で賛同を表明している4,872企業・機関のうち30%にあたる1,470企業・機関が日本の企業・機関です。
日本のある金融関連企業では、気候変動による異常気象の被害範囲が拡大するリスクを想定しています。これにより保険額が増額し、巨額の保険支払いにより経営に影響を及ぼす危険性を危惧しています。この企業は異常危険準備金の積み立てや再保険を手配することにより、リスク管理をしています。
TCFDについて解説しました。TCFDは国際的な気候変動による経済影響に備えるための枠組みで、企業や機関に対して気候変動への取り組みに関する財務情報について開示を推奨しています。

最終報告書には、ガバナンス(Governance)・戦略(Strategy)・リスク管理(Risk Management)・指標と目標(Metrics and Targets)の4つの基本項目が設けられており、日本国内でも積極的に賛同されています。

TCFDサミット2020では、菅内閣総理大臣が出席し日本政府としてTCFDを支持し、脱炭素社会に貢献していくことを表明しています。

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