そのゴミは世界へと繋がっている。UNEP本多俊一さんに聞く、廃棄物問題を通して考える地球環境 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

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コラム

最終更新:2024.05.20

そのゴミは世界へと繋がっている。UNEP本多俊一さんに聞く、廃棄物問題を通して考える地球環境

毎年5月30日は、「530(ごみゼロ)」の語呂合わせから「ゴミゼロの日」であることをご存知ですか。厚生労働省もこの時期を「ごみ減量化推進週間」とし、多くの企業や自治体がゴミを減らすキャンペーン等を行っています。

適切に処理されないゴミは、川や海など自然界に流れ出し、環境汚染につながる問題です。そこで、国連のなかで廃棄物や化学物質に特化した活動を行い、気候危機・自然危機・汚染危機を「地球三大危機」と位置付けて廃棄物の問題に向き合う国連環境計画(以下、UNEP)の本多俊一さんを訪ねました。UNEPとしての取り組みや、課題解決のために国内企業と協働できる可能性について、うかがいます。

それぞれのゴミ事情。課題のつながりを考える

――UNEPという組織、そして、本多さんのお仕事について教えてください。
本多 UNEP(国連環境計画)は、国連の中で環境に特化した専門組織です。存在を知らない方も多いかもしれませんが、設立は1972年と歴史が長く、50年以上にわたって地球環境の保全に貢献しています。本部はケニアのナイロビにあり、世界中に約1,000名の職員がいます。私は国際環境技術センター(IETC)という部署に所属しています。 事務所は大阪にありますが、仕事としては193カ国の国連加盟国における廃棄物問題解決に取り組んでいます。
ゴミの分別意識が高い日本にいると、廃棄物のこともそれほど問題視しないかもしれませんが、地球の環境問題を考える時、途上国のゴミ問題も決して人ごとではありません。日本からどうやって支援できるのか、日本にできる役割を考えることも非常に重要だと考えています。
本多 俊一(ほんだ しゅんいち)
本多 俊一(ほんだ しゅんいち)
国連環境計画・国際環境技術センター プログラムオフィサー。国連環境計画(UNEP)にて統合型廃棄物管理関連事業の主担当として、開発途上国における廃棄物管理戦略支援事業や循環経済社会に向けたリサイクル事業活動支援を実施。他にも環境上適正な電気電子機器廃棄物、有害廃棄物、プラスチック廃棄物の管理、水俣条約等の多国間環境条約における廃棄物管理支援、ブルーエコノミーにおける資源循環等多岐にわたるプロジェクトを実施。
――日本と途上国、それぞれ廃棄物に関してどんな課題があるのでしょうか。
本多 日本の場合は、すでに70年ほど廃棄物の問題に取り組んできた歴史があります。高度経済成長期においては、環境よりも経済成長が優先された結果、水俣病や四日市ぜんそくなど四大公害病を引き起こしました。しかし、こうした経験を教訓として、日本は廃棄物管理の改善に努めてきました。現在、水俣市では22種類のゴミの分別が徹底され、全国的にも分別収集が生活に組み込まれている社会になりました。
近年、日本で廃棄物の課題と言えば、電気・電子機器のリサイクルや、プラスチックなど、少し先進的な目線での課題が挙げられます。しかし、ポイ捨ては結構、見かけますよね。私も時々、大阪城公園を散歩するのですが、タバコの吸い殻やプラスチックゴミが落ちていたり、月曜の朝などは自動販売機のゴミ箱に、缶でもペットでもなくお弁当ゴミが捨てられているのを見たりします。残念ながらゴミのポイ捨てはなかなかゼロになることがないのですが、これは他の先進国でも同じことが言えます。
UNEPとして対応すべきと考えているのは、途上国でのゴミ問題です。すぐ解決できるものでもないのですが、途上国では数十年前の日本と同じように、ただそのまま捨てる、ということが通常になってしまっています。とりあえず人が住んでいない、何もないところにただ捨てる。例えば郊外の、自然も豊かに残っているようなところを埋立処分場にする例は、さまざまな途上国において共通しています。
このような処理方法は、かつての日本のような環境汚染を引き起こす原因にもなりますし、焼却処分すれば二酸化炭素やメタンガスが大気に放出されて気候変動への悪影響にもなり、ダイオキシンなどが発生する可能性が高いことも非常に問題です。
現時点ではそうしたオープンスペースへの放棄が彼らのベストな方法になってしまっているため、これからの数年、あるいは数十年といった時間を掛けながらでも、まずは適正な管理方法にすること。それが途上国における廃棄物に関する最大の課題です。
――日本の課題は先進的ということですが、国際社会全体においては、どのような議論が進んでいるのでしょうか。
本多 先進国の議論としては、リサイクルに関することです。何をどうリサイクルするべきか、どんなリサイクル素材を使って、そこからどんな経済をつくるのか。まさに今、プラスチック汚染に関する国際条約が作られようとしているところで、2024年中の交渉終了を目指して各国政府が検討しています。日本政府はもちろん、各国政府がプラスチックのリサイクルについて考えないといけない時が来ています。条約の内容は現時点では未確定ですが、使い捨てプラスチックの使用を減らすことや、リサイクル率の向上、プラスチックの使用量削減を考える方向になるはずです。
プラスチックをいかに有効に資源循環し、どんなビジネス展開へと繋げるのか。企業の皆さんもたくさん努力されているところではありますが、今後のシステム作りには課題解決の要素が一層重要となるはずです。

環境汚染コストを経済に取り入れて

――国内企業の廃棄物問題の取り組みとして、具体的な事例を教えてください。
本多 多くの企業が積極的に推進されているので全てを把握しているわけではありません。しかし、グローバルに展開されている大手アパレル企業では、いかにプラスチック素材の使用を減らし、リサイクル素材を増やすか。サプライチェーン全体で徹底的に取り組もうとされています。
また、小売系のグループ会社を統括する企業では、食品廃棄物を削減するために、業界の慣習を変えることや、消費者に向けた協力体制のアプローチなどを全国的に進めています。
この2社に限らず、企業がこうして最大限の努力をすることで、その先にいる消費者に響くという効果が生まれてくることが大事だと思います。少しずつでも「今日のうちに食べるものだから賞味期限の早いものを買おう」とか「500円高いけどリサイクル素材を使った服を買おう」といった具体的な行動変容も出始めています。逆に、環境への対策を何もしないビジネスは今後、お客様に選ばれないような時代に変わっていくでしょう。
実際に、世間は徐々に変化していると感じています。数年前はコンビニでレジ袋を受け取ることが当たり前でしたが、今ではマイバッグを持参していないとちょっと恥ずかしく感じる人も増えてきました。スーパーの売り場でも、野菜はなるべく丸ごと販売することを進める傾向にあります。
本多 5年、10年と時間は掛かるかもしれませんが、将来は良い方へ変わるはずだと考えています。
ただ企業だけではなく、本当は私たち全員が変わり、資本主義も変わらないといけないですよね。というのも、これまでの資本主義経済では、環境負荷に関する企業のコストを経済面から考えてきませんでした。専門用語では「外部不経済」と言われています。その結果、年間約200兆円とも言える環境汚染コストを引き起こすことに繋がっています。
今後はいかに経済のなかに環境コストを入れ込んで、循環経済として、環境にやさしい経済を作れるかどうかがビジネスにおける課題になっていくでしょう。

UNEPを活かして欲しい。途上国と日本のスクラム

――途上国においても、状況はよくなっていると感じますか。
本多 少し前にカンボジア・プノンペンに出張に行きました。現地の環境省と市役所からのリクエストで、プラスチック汚染対策に関する支援要請があったためです。個人的には10数年振りに訪れたプノンペンは、すっかり経済発展し、高いビルが建ち並んで街を走る高級車が増えていました。その一方で、町中がプラスチックを中心としたポイ捨てだらけであることは変わらず、むしろ悪化したとも感じました。
しかし最近では、現地のNGOが動き出しています。アンコールワット近くのトンレサップ湖に浮かぶプラスチックゴミを回収したり、地域市民に向けた環境教育のプログラムを始めようとしたり。一部ではプラスチックごみを回収しそれを粉砕・融解・洗浄して資源に変え、公園のベンチやゴミ箱、建築素材を作るメーカーもできていました。
UNEPではそうした現地の中小企業やNGOなど、点と点を繋ぎ、課題解決となるプロジェクトがより効率的に進むようお手伝いをしています。できるだけ現地の皆さんと一緒に考えて、一緒に動き、地域に適用したモデルを作るのが私たちの仕事でもあります。
もちろん課題として相当大きいことですので、すぐに解決できるものではないのですが、少なくともスタートラインは切りました。これからの10年、20年、もっと長い年月が掛かるかもしれませんが、すでに動き出したことを讃えて、みんなで支え合いながら一緒に確実に広げていきたいと考えています。
――そうした場面で日本企業にできることは何でしょうか。
本多 やはり日本には、技術面での期待が大きいと思います。ペットボトルの水平リサイクルや焼却施設におけるエネルギー回収、また、一般市民と共に取り組むための事例紹介など、日本には大切な知見がたくさんあるからです。
UNEPとしても、もっと日本企業の皆さんと一緒に汗をかきたいと考えています。私たちが一緒に現地サポートするプロジェクトはどうしても数年で終わってしまうことが多いので、プロジェクト終了後も長期的に続けるためには、ビジネス的視点に落とし込むことが欠かせません。持続的であるためにはどうしたらいいのか。環境課題を解決しながら現地でキャッシュフローを生み出すノウハウを一緒に作ることが理想です。
きっと、日本企業の中には、これから海外展開をしようと考えているところも多いでしょう。ぜひとも現地のサポートを通して、日本のグリーンテクノロジーやグリーンビジネスを浸透させるために、UNEPを巻き込んで欲しいです。
UNEP 本多 俊一
UNEP 本多 俊一

「誰ひとり取り残さない」ために世界を見る

本多 近年、日本企業にとって2050年までの温室効果ガス削減に向けた取り組みは、経済的にも重要な課題になっていますよね。特に二酸化炭素の排出量が大きい運輸・小売業では、技術開発や、使用量の削減といった改革が考えられていると思います。すでに皆さんの多くが、二酸化炭素の削減やSDGs目標の達成に努力されていると思いますが、この問題解決のためにはグローバルな目線が非常に重要です。
気候危機、自然・生物多様性の危機、そして汚染危機という地球の三大危機は全て繋がっています。先進国だけが目標を達成しても、世界人口の8割以上にあたる途上国の人たちが取り残されてしまう可能性があるわけです。
SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」という世界共通の目標達成のためにも、先進国に暮らし、洗練された技術政策やビジネスを展開している日本企業の皆さんには、大きな役割と責任があると言えます。ぜひ、途上国の中小企業や市民の皆さんを助けるようなビジネスモデルをUNEPとも協力し展開していただきたいと思っています。

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