【アルガレックス】天然のうま味調味料「うま藻」で豊かな海を取り戻す
「グリーン&サーキュラー」をキーワードにしながら、新しいことに挑戦し続ける方々に話を聞く連載『未来を拓くリーダーたち』。第6回は、魚を減らさない養殖を目指して藻を生産していたところ、偶然にも美味しい藻ができて「うま藻」として販売するに至った、「AlgaleX(アルガレックス)」の高田大地氏にご登場いただきました。
2021年3月に沖縄県うるま市にて創業した、サステナブル・フードテック・カンパニーの「AlgaleX(アルガレックス)」。未利用食品残渣である泡盛粕を使い、AIで藻の生育を制御しながら、100%天然成分の新たなうま味調味料「うま藻」を販売しています。しかし、創業の動機や目指すゴールはまったく違うところにありました。
今回は、同社の「うま藻」「うま藻 だし醤油」「うま藻 醤油麹」を味わいながらの対談。西麻布 ル・リアンの料理をいただきながら、代表取締役社長の高田大地氏に紆余曲折の物語と、その裏側にある熱い想いを伺いました。
魚の餌に魚を使う養殖は、サステナブルではない
上野 高田さんはもともと商社にお勤めだったと聞いています。
高田 はい、養殖向けの魚粉と魚油を輸入するチームにいました。仕組みとしては、日本でマグロやブリ、鯛などを育てるため、南米のペルーやチリから大量のアジやサバを輸入します。そのままだと腐るので、現地で水分を抜いて魚粉と魚油にして、それを港で結合して配合飼料という形で餌にするわけです。
高田 大地|たかだ だいち
株式会社アルガレックス 代表取締役社長
1989年生まれ、茅ヶ崎市出身。早稲田大学法学部卒。大手総合商社にてM&A、事業再生、ベンチャー投資を担当。その後、水産養殖の課題解決を目指し、商社在職時に投資したスタートアップにCFOとして転職。2021年3月株式会社AlgaleXを設立
高田 現在、海の魚は激減しています。そんな中、魚の養殖はソリューション(課題解決)になっておらず、天然の魚を減らし続けていてサステナブルではありません。
なぜ魚に魚を食べさせるのかというと、タンパク質とDHAが必要だからです。それを安価で安定的に供給できるのが天然の魚です。しかし、天然の魚はDHAを蓄えるだけで作れない。 自然界でDHAを最初に作り出すのは藻です。そこで僕らは、藻を育てる事業を始めたわけです。
上野 昌章|うえの まさあき
『Green & Circular』編集長
三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
高田 日本近海の漁獲高で言えば、ピーク時に1300万トンありましたが、今では370万トンしかありません。また、2014年にはペルー沖でサバがまったく獲れずに魚粉が高騰したことがあります。「今後もこういうことが起こる」と、前職で魚粉の代替となる事業に舵を切ったわけです。
上野 藻の研究は商社時代から始まっていたわけですね。
高田 パームオイルの廃油で藻を育てるインドネシアの会社に出資していました。その縁で私はCFOとして転職したのですが、約一年後にファウンダーが亡くなられたこともあり事業が途絶えてしまったんです。
高田 当時、インドネシアの会社で研究実務のトップだったのが当社CTOの多田清志です。ふたりで独立して立て直そうと、2021年3月に沖縄でAlgaleXを立ち上げました。
設備の都合で沖縄へ。偶然出会った泡盛粕
高田 藻を育てられる商用のパイロットスケール設備を持っているのが沖縄県だったんです。2000年代初頭、微生物系の企業を誘致しようと設備導入したようです。それを知った直後に沖縄に飛んで行き、すぐにその設備を借りて生産を開始、今も使わせていただいています。
高田 そうなんです。さらに、私たちは魚を減らさないことから始まっているので、未利用食品にこだわって藻を育てていました。そんな中、泡盛粕で育ててみたらうま味が豊富な藻が偶然できたわけです。
キャビアにレモン汁と「うま藻」を振りかけ、金粉をあしらった一品。キャビアの塩分に、うま藻のうま味がプラスされ豊かな味わいがいつまでも続く
高田 すべてが偶然でした。それまでにも、酒粕やサトウキビのバガスや糖蜜、ビール酵母などで試していました。泡盛粕は当社の向いにある新里酒造に譲っていただき実験したところ、いつもと違うカラスミみたいな薫りがした。当社の副社長が食べたところすごく美味しいと。
高田 DHAはサバの13倍、GABAはトマトの10倍、アルギニンはニンニクの3倍。うま味成分のグルタミン酸は昆布の1.5倍、コハク酸はしじみの4倍、アスパラギン酸はアスパラガスの5倍あります。
うま味成分で知られるグルタミン酸が豊富なだけでなく、貝のうま味成分であるコハク酸が4倍入っていることで、2重のうま味パンチがあるんです。
上野 この濃厚なうま味のポイントはそこなんですね。泡盛粕を使ったことで、明らかに増えた成分は何ですか。
沖縄そばに「うま藻」を少々ふりかけるだけでもうま味が引き立つ
生育過程のばらつきをAIで補正する独自技術
上野 改めて、藻についての基礎知識を教えてください。
高田 藻は大きく分けると、光合成するものとしないものの2種類あります。独立性藻類というのは、光合成して光と二酸化炭素があれば成長していく。
うま藻の藻であるオーランチオキトリウムは、極小の従属性藻類でエサを食べて育つ。具体的に言うとアミノ酸・糖・酸素を食べて成長していくんです。
高田 泡盛粕はアミノ酸供給源として活用しています。藻は成長過程でアミノ酸を吸収して体に蓄えていきます。そのうちの一部が、DHAという油に変わっていく。酒粕や焼酎粕など、「粕」と呼ばれるものはアミノ酸がすごく豊富なんです。そのまま捨てると、川などが富栄養化して生物の生態系を壊してしまうほどです。
上野 泡盛メーカーとしては、泡盛粕を処理する必要がなくなる。
高田 はい。藻はタンクの中で育つのですが、育ち終わると下に溜まっていきます。最後はプリンみたいになるんですよ。上部はアミノ酸が抜けた泡盛の粕。それを除いてプリン部分だけを取り出して乾燥させると「うま藻」になります。
高田 乾燥させると海苔のようなシート状になるので、それを砕いて粉にしているだけです。
上野 いつ頃から、オーランチオキトリウムに注目されたのでしょうか。
高田 藻がDHAをつくることは以前から知られていました。その中で、一番DHAを蓄える種類がオーランチオキトリウムなんです。石油を作る藻で話題になったのと同じ種類です。
高田 育てにくいですね。安定的に育てるのがすごく難しい。
高田 AlgaleXを一緒に立ち上げた多田は素晴らしい研究者なんです。彼は自動制御で微生物を育てることを、AIやディープラーニングが生まれる前からやっていました。培養に関する知見があり、その動きをプログラミングに落とすこともできる。生育過程のばらつきを補正するAI「TOUJI-24」は彼が開発しました。
上野 生育にばらつきがあると、うま味成分の含有量も変わってしまうわけですね。そこを完全に制御されている。一方で、藻が美味しくできたことで、ビジネスモデルが大きく変わったのではないでしょうか。
高田 自分の中では変わったと思っていません。当初から、DHAサプリメントのような形で、養殖に行く前に稼げるビジネスが必要だと考えていました。感覚的には、健康食品から調味料に変化した程度。もともと食べることが好きなので、楽しく売ることができています。
美味しくなければ、裏側にある想いは届かない
高田 シンプルに言うと、健康だろうがサステナブルだろうが「美味いが正義」でわかりやすいですね。美味しいという前提があって、初めてストーリーを聞いてもらえる。
ですから、展示会に行っても養殖の話は一切しません。「昆布の倍以上のうま味がある食材、食べたことあります?」「DHAも摂れちゃうんです!」みたいな話をしています。
高田 食べてもらった方にはすごく好調です。シェフの友人からは「単一食材でこんなうま味のあるものは見たことがない、面白い食材だ」と言ってもらいました。今日もそうですが、シェフの方々は皆さん研究熱心なので、いろいろと工夫して使っていただき感謝しています。
「うま藻 だし醤油」にトリュフオイルを合わせ、石垣島のメバチマグロを漬けにした一品。削ったトリュフを添え、フリットしたライスペーパーには塩の代わりに「うま藻」を振りかけている
上野 AlgaleXの今後の展望を教えてください。
高田 先ほど、100%天然成分と仰っていただきました。僕らは昆布、鰹節、椎茸に次ぐうま味食材として、「藻」というジャンルを作りたいんです。そのためには、47都道府県どこに行っても「うま藻」が買える状態にしなくてはいけません。まずはそこを達成したいです。
その過程で、to B向けの販売も増やしていく。これはセカンドステップですかね。最後に魚粉の代替ビジネスに入っていこうと考えています。
海の生態系の回復に少しでも貢献していきたい
上野 今後、食材としてのうま藻が順調に拡大していけば、養殖の餌としてのうま藻も黒字化できるのでしょうか。
高田 いえ、よくてトントンだと思います。ただ、魚に魚を食べさせない方向に持っていくことは絶対にやるべきことです。しかし、そこが一番お金にならない。まずは食材としてのうま藻を成長させ、本当にやらなきゃいけないところに資金を回していく。それが私たちの目指すビジネススタイルです。
上野 最後に、このビジネスを通じて叶えたい夢をお願いします。
高田 このまま行くと、 天然の魚を食べ続けることができる最後の世代になるかもしれません。それくらい海の魚は逼迫しています。スーパーに行けばわかりますが、地魚はほぼないですから。
そんな状況の中で、お寿司を少しでも長く食べ続けることができる世の中になってほしい。そこにうちの技術が少しでも貢献できればと思います。
究極を言えば、養殖が必要のない世界になればいい。海は巨大な養殖場ですから。前職では海の資源を減らすビジネスをしてきましたが、これからは海の生態系の回復に少しでも貢献していきたいと考えています。
上野 藻の生育にAIを使うディープテック・スタートアップでありながら、根底には「海を守りたい」という壮大なテーマと、「美味しい食材」があるのはユニークだと思いました。誰にでも親しみやすいスタートアップとして、さらなる活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
協力:西麻布 le lien (ル・リアン)
ラ・ロシェルにて13年修行を積んだ若きシェフ、安里 渉氏が手掛ける琉球フレンチ。表参道駅より徒歩12分。閑静な住宅街にひっそりと佇む隠れ家レストランであり、沖縄テイストの斬新な料理が上質を知る西麻布界隈の人たちの話題となっている
https://www.instagram.com/nishiazabulelien/
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