脱炭素DXへの歩みを 各企業の現場から進めていく
「脱炭素」をキーワードにしながら、新しいことに挑戦し続ける方々に話を聞く連載『未来を拓くリーダーたち』。第三回は、「DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする」を掲げる株式会社メンバーズより、専務執行役員でありCSV本部 本部長 兼 脱炭素DXカンパニー社長の西澤直樹氏に登場いただきました。
顧客の組織に常駐し、組織に組み込まれることで「脱炭素DXの現場実行支援」をあたかも社員のようにおこなっているメンバーズの社内カンパニーである脱炭素DXカンパニー。「脱炭素×DX」というビジネスモデルはいかに生まれたのか、社員の意識変革をどのようにおこなっていったのか、提供するサービス内容も含めて話を聞きました。
CSV経営を起点に 脱炭素DX事業に大きく舵を切った
上野 「脱炭素」という言葉があまり注目されていない頃から、メンバーズさんはDXの文脈で先進的に取り組まれてきました。まずは「脱炭素」に着目されたきっかけを教えてください。
西澤 メンバーズは1995年に創業いたしまして、当初はWebサイトの制作や広告代理業を中心にやっていました。その後、2006年に上場するわけですが、直後に2期連続赤字、社員の定着率低下、株価低迷と、倒産危機ともいえる状況に陥ったんです。リーマンショックなどの煽りもあり、2008年前後は大変苦しい時期でした。
西澤 直樹|にしざわ なおき
株式会社メンバーズ 専務執行役員
CSV本部 本部長 兼 脱炭素DXカンパニー社長
2006 年に新卒入社。2013 年に最年少部門長として現在のDX現場支援事業の基盤となる成果型チームモデル確立を推進。2017 年4月に執行役員に就任。メンバーズ初の CSV (Creating Shared Value:共有価値の創造)事例創出を牽引。2018年4月に常務執行役員へ昇任し、2023 年4月、脱炭素DXカンパニーの社長に就任。脱炭素×DXの両立をテーマに、デジタルの力で「脱炭素社会の創造」を目指す
西澤 それを機に「この会社は何のためにあるのか?」「社会の役に立っているのか?」という基本に立ち戻ったわけです。振り返ってみると、これまでは売り上げ至上主義のよくあるITベンチャーでしかなかった。そこから自分たちを見つめ直し、経営の軸として「社会への貢献」「社員の幸せ」「会社の発展」を同時に実現することを目指す経営指針「超会社」が生まれ、「CSV経営(経済的価値と社会的価値の両立)」として、社会課題に明確に取り組み始めたのが2014年です。2020年には、重点的に取り組む社会課題として気候変動問題を定めました。
上野 昌章|うえの まさあき
『Green & Circular』編集長
三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
西澤 当時の経営陣の意向もありましたが、私が2030年に向けたミッション・ビジョンを作成するプロジェクトリーダーでもありました。
上野 ビジョンとして、重点的に取り組む社会課題に気候変動問題を定めたのはなぜでしょう。
西澤 そうですね。さまざまな社会課題を網羅しようとしても、世の中を変えるのは難しいですし、ナレッジも貯まりにくい。それならば集約しようと考えました。
上野 なるほど。とはいえ、御社にはクリエイター系の人材が多くいらっしゃいます。パソコンを使って何かを生み出すことの多い方々は、「脱炭素」と突然言われて戸惑われたのではないですか。
西澤 おっしゃる通り、実際何をすればいいのかわからないという人も多かったですし、貢献意欲はあっても実感がない。誰がやるのか、どうやるのかを模索する数年間がありました。
社員の意識改革が進んだ「脱炭素アクション100」
上野 「脱炭素アクション100」というのは、そういった雰囲気を打開するような面白い取り組みだと感じました。改めて教えていただけますか。
西澤 ありがとうございます。「脱炭素アクション100」は、日々の業務の中にある脱炭素につながる行動をリスト化したものです。実行できたアクションにチェックを入れて各社員に提出してもらったところ、初年度だった昨年のアクション実施数は2300を超える結果となりました。また、全社でどの程度CO2を削減できたのかを計算したところ、想定約1700トンの炭素削減につながりました。
上野 それはすごいですね。脱炭素の取り組みをいかに社員に浸透させていくかは、どこの会社でも課題となっています。ちなみに、御社ならではのアクションの一例を教えてください。
西澤 当社でいえばコードの書き方をちょっと変えるとか、サイトのデザインを見やすくしてページの遷移を減らすなどです。それらが脱炭素につながることを可視化するだけで、社員の意識は大きく変わっていきました。最近では、社員から「こういう取り組みをやったほうがいい」とアイデアが出てくるほどになりました。
上野 小さなことでも、みんなで取り組むと大きなインパクトになるわけですね。
西澤 そういった気づきが、お客様にもいい影響を与えることができると考えています。当社が「DX現場支援」を謳う中で、今後はサービスモデルそのものを変えていく、生活者へのアプローチを変えていく、そういった提案も大事になっていきます。
実際、売り切りからサブスクにするだけでもCO2は減るでしょうし、商品を打ち出すときの訴求を見直したり、配送の仕方を変えるだけでも減っていく。そういったご提案も含め、お客様のデジタル施策におけるパートナーになれればと考えています。
上野 CO2の排出につながる活動量を減らすことは、効率化ともニアリーイコールですよね。また、コスト削減のための施策が、無駄な排出量を増やしてしまうこともある。そういったことまで可視化されると、何が正しい選択か見えてきそうです。
西澤 まさにそうですね。現在はまだコストや利便性を重視しがちですが、今後はKPI(重要業績評価指標)に匹敵するようなものとして、脱炭素への取り組みが加わって欲しいと考えています。
「はかる」「減らす」「稼ぐ」をGX人材が支援
上野 ウェブサイトでは、「はかる」「減らす」「稼ぐ」の3つに分けて各種サービスを紹介されています。
西澤 いろいろな企業さんとお話しをしていると、皆さん「はかる」のところに時間と手間が取られている。また、「減らす」はコストに直結してくるので、脱炭素に向けた取り組みを企業価値に変えて、 何かしらの形で「稼ぐ(利益)」に貢献できるようにしていくべきだと考えています。
上野 順番にお聞きしたいのですが、まずは「はかる」についての主なサービスを教えてください。
西澤 (CO2排出量を)「はかる」ためのツールやソリューションは世の中にたくさんあり、皆さん精緻に計算されています。一方で、そのための業務や日々変化する制度や規制に追いついていないのが現状です。当社は、お客様が採用されているCO2可視化ツールを活用しながら、業務を効率的に、さらには属人化しないためのデジタル活用およびGX人材の提供をおこなっています。それらを通じて、サステナビリティ業務の効率化を支援することが大きな特徴です。
上野 可視化(はかる)において問題になるのが、どの部署がデータを集めるのかということだったりします。財務データを集める仕組みはどこの会社もありますが、非財務データを集める仕組みがない。
西澤 脱炭素の話が本格的になったのはここ数年です。おっしゃるように、これまでは売り上げや販管費のような、財務データを見て経営していればよかったわけです。それが急に、排出量のような非財務も開示する必要が生まれてきた。
そうなったときに、いかに既存の基幹システムから効率的にデータを取り出して集約するかというのは、デジタル活用の有効な一つです。新しいテクノロジーを使って簡便におこなう、場合よってはAIを使いながら処理を任せるといった使い方は、今後さらに増えてくると思います。まさに「脱炭素×DX」の領域です。
上野 「炭素会計」という言葉もありますが、誰が排出量の計算を担うのか、それをいかに現場に指導するのか。今後は経理担当者が新たなスキルとして習得することが求められるようになると思います。
西澤 「炭素会計」という概念が入ってくると、多少高くてもこの製品を調達する必要があるとか、こちらの素材を選ばないといけない、こんなサービスの提供の仕方をするべきといった「判断」が必要になってきます。
そうなると、経営企画や経理だけが知っていればよいのではなく、あらゆる業務の方々が、一定の知識を持って、CO2削減を念頭に置きながら仕事をすることが求められます。
LCA算定の効率化および内製化支援
上野 そうですよね。企業単位の排出量はわりとわかりやすいですが、LCAのように製品単位でやろうとするとハードルが高い。御社もLCA算定サービスをされていますが、これはどのようなサービスなのでしょうか。
西澤 事業を立ち上げた際、最初にやるべきだと感じたのがLCAでした。しかし、単にLCAを測定するだけでは、他社と差別化できない。そこで、デジタルを使って効率的にやる、またはAIがある程度係数を見てくれるなど、 効率的かつ安く大量に処理ができるような仕組み(LCA算定AIシステム)も活用した「内製化支援」を始めました。
西澤 (CO2排出に関する)一次データを欲しい企業にとって、データの提出をお願いする先が中小企業であったり、脱炭素に関して対応が遅れている取引先がある場合、サプライヤーエンゲージメント(調達先との対話)をどう取るかが一つのポイントになります。単に「排出量データを出してください」というだけではなかなか出てこない。
そこで、排出量データを「はかる」意義を説明したり、自分たちの会社の調達ポリシーを規定するといったことのお手伝いをしています。 また、サプライヤーに寄り添いながら排出量測定方法をマニュアル化したり、説明動画を用意するなどして、サプライヤー側の環境を整えることも支援しています。その他にも一次データの精度や粒度を限定するなど、やり方はいろいろあるので、適宜ベストな方法を模索しながらおこなっています。
上野 そういったサポートはすごく大切だと思います。しかし、そこをサービス化している会社はあまり見かけないですね。
西澤 とても手間がかかることなので、ある程度リソースをかけながら伴走しないと無理なんです。そこに関しては、デジタルやツールで解決するというよりも、 人と人のエンゲージメント。まさに「現場」が大事になってきます。
上野 では、「減らす」に関するサービスを教えてくだい。
西澤 当社は再エネ創出事業者でもなければ、Scope1・2を減らせるようなソリューションを持っているわけでもないので、ターゲットはScope3です。
先ほどのサプライヤーエンゲージメントを構築するにあたっては、現場社員の方々が一定のカーボンリテラシーを持つことが必要不可欠です。そのためのGX人材育成や研修プログラム、循環経済を学べる独自のワークショップを提供することが一つ。併せて、弊社が取り組んだ脱炭素アクションをベースに顧客の事業内容に応じて設計し、事業部側が脱炭素を実践できるプログラムをご提供しています。
カーボンフットプリントを使った製品訴求
上野 「稼ぐ」の分野においては、「デジタルマーケティングでの支援」と謳われています。それはどのようなものなのでしょうか。
西澤 「CSV型マーケティング」と言っているのですが、お客さんが本来おこなっている環境への取り組み、または社会課題解決の取り組みを「事業価値」に変えていく支援をしています。それらにまつわるコミュニケーションの仕方、ユーザーに届きやすいデザインといったものは、すでに当社では多くの実績があり事例もノウハウも蓄えています。
そこに「脱炭素」が加わる場合は、カーボンフットプリントがポイントになってくると考えています。カーボンフットプリントを上手に使って製品を訴求したり、それに応じたキャンペーンを企画するなどは、「稼ぐ」分野の一つだと考えています。
上野 我々がやってる
Earth hacksと近い領域ですね。
西澤 考え方がすごく似ていますし、Earth hacksさんはとてもわかりやすく見せていらっしゃる。ご縁があれば連携もしていきたいですね。
一方で、我々はマーケティングだけではなく、プロダクト開発支援のように、モノ作りそのものに環境価値を付与する形で、「稼ぐ」を実現させていくこともやっていきたいと考えています。
上野 現場のお困りごとに寄り添ったサービスを数多くやられていますが、メンバーズさんをパートナーとして選ぶメリットはどこにあるとお考えですか。
西澤 脱炭素や気候変動に関する知識を持ったうえで、チームに入って一緒に仕事をしてくれる、自分たちのビジネスモデルを理解してくれるという点だと思います。仕事のスタンスもコンサルに徹するのではなく、自ら率先して手を動かし、お客様業務を通じて課題を発見、さまざまなデジタル技術を用いて解決していく姿勢も評価頂けているところですね。
上野 業界に先駆けて「脱炭素 × DX」の現場支援をされてきましたが、スタート時から現在まで、何か世の中の変化を感じますか。
西澤 数年前までは「やらざるを得ないからやっている」という企業が多かったですが、最近は「やった方がいいね」に変化して、率先して取り組まれている印象があります。毎日暑いですし、天候の移り変わりも激しく、生活が脅かされている実感があるからかもしれません。
上野 将来的にどんな社会になっていくことを期待されていますか。
西澤 CO2排出量が可視化され、購買行動の一つとしてエンドユーザーも意識するような社会になるといいなと思います。抑圧されながらの脱炭素ではなく、カロリーのように常に頭の片隅にあって、判断軸の一つに脱炭素がある。そういう判断材料を企業が提供していき、 付加価値として事業運営されていくような社会を我々も一緒に作っていきたいと考えています。
上野 お話を伺っていて、その未来は意外に近いかもしれないと感じました。本日はありがとうございました。
連載『未来を拓くリーダーたち』
次世代への架け橋 -太陽光発電が現在の最適解である理由- - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産
第一回は、太陽光発電システムの設計・施工・販売のみならず、運転管理や保守管理、関連製品の開発・製造など多岐に渡り手がけ、太陽光発電協会(JPEA)の理事やJPEAが組織する「地域共創エネルギー推進委員会」の委員長も務められている、XSOL(エクソル)代表取締役社長・鈴木伸一氏に登場いただきました。
地域や自然と共に取り組む 再生可能エネルギーのあるべき姿 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産
第二回は、グローカルリーダーを育てる学校を作り、新しいビジネスモデルにも果敢に挑戦し続ける、自然電力執行役員の瀧口直人氏に登場いただきました。
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