「エコマーク」は企業と消費者とのコミュニケーションツール - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2024.09.24

「エコマーク」は企業と消費者とのコミュニケーションツール

環境意識の高まりとともに、環境配慮商品への関心も高まっています。企業にとっても、環境負荷低減と持続可能な製品・サービスの提供が求められます。
そこで注目されるのが、ライフサイクル全体で環境負荷が少ないと認められた製品・サービスに授与される「エコマーク認証」です。
エコマークの認証機関である公益財団法人 日本環境協会の山縣秀則さんに、これまでの活動の経緯や最近の事例、今後の展望をお聞きしました。

環境問題が顕在化した1980年代に始動

――エコマークの役割と生まれた背景について教えてください。
山縣 エコマークは、環境保全に役立つ商品やサービスを認定することで、持続可能な社会の実現にむけた企業と消費者をつなぐコミュニケーションツールとしての活用を目的に1989年にスタートしました。国際標準化機構の規格ISO14024に則って運営されている、日本で唯一のタイプⅠ環境ラベル(自主的で多様な基準に基づいた、第三者の機関によってラベルの使用が認められる制度)です。
1980年代は生活排水やごみといった都市型の環境問題に加え、オゾン層破壊など、地球規模の環境問題が続けざまに発生しました。日常生活と環境の関わりによる問題が顕在化したことで、より具体的な環境政策が求められるようになったと思います。そこで当時の環境庁(現在の環境省)の指導のもと、より身近な問題として環境を意識し、消費においても環境に配慮した商品を選びやすくするため、私どもが事業を開始したのがエコマークのはじまりです。
山縣 秀則(やまがた ひでのり)
山縣 秀則(やまがた ひでのり)
公益財団法人日本環境協会常務理事。永く損害保険業界にて要職を歴任し役員退任後、前職では政府系企業の環境事業の統括として処理プラントの運営管理、行政(国、自治体)との折衝・交渉等に従事。現職では民間経営の知見・経験を活かし、環境ラベルの事業責任者として尽力している。
――認定はどのようなプロセスを経て取得できるのでしょうか。
山縣 国際標準化機構のISO規格に則り、74の商品やサービスの分野ごとに、認定基準を定めています。月1回、審査委員会が行われ、有識者によって審査・承認されたものを、エコマーク商品として認証しています。認定基準は商品の資源採取、原材料調達から製造、販売、廃棄に至るまでのライフサイクル全体を考えて策定されており、現在は1,500社近い企業が、5万を超える商品で取得しています。
――スタート当初の苦労や、現在の課題について教えてください。
山縣 エコマークは、消費者や生活者の皆様に環境問題を身近なこととしてご理解いただくことがスタート当初からの目的です。そのため、難しく専門的な基準よりも、なぜこの商品やサービスが環境への影響が少ないのか、どのように環境に配慮されているのかという点を情報としてお届けするところが最もハードルが高かったと思います。
より広く消費者の皆様方に届けるために、認定のハードルを下げればエコマーク商品の数は増えますが、下げ過ぎれば本来の趣旨や目的を達成できなくなってしまいます。厳しすぎず、かつ、広めていく。このバランスは難しいところでもあります。
後から誕生したさまざまな環境ラベルの中でも、エコマークはトップランナーとして環境配慮の基準を継続していると思っています。その意義を一般消費者の皆さまにどうお届けできるかは、今までもこれからも、非常に重要なポイントだと思っています。
世界エコラベリングネットワーク
世界エコラベリングネットワーク

海外ラベルとの相互認証、グリーン購入法での活用、社会変革とともに進化するエコマーク

――近年の認定状況や、めずらしい具体例を教えていただけますか。
山縣 ここ数年は特にSDGsの影響が大きく、メーカーなどの企業から「エコマークの基準がSDGs17の目標のうち、どれと結び付いているのか」といったお問い合せが非常に増えています。そこで、エコマークと17目標の関わりを示したガイドブックを策定して公表しました。
また当然のことながら、環境問題は国内だけですべて解決できるものではありませんので、海外の環境ラベルとの相互認証にも力を入れています。現在、14か国・10機関のタイプⅠ環境ラベルと相互認証協定を締結しています。また、タイプⅠ環境ラベルの国際的な普及を目指し、EC(欧州委員会)やUNEP(国連環境計画)、GIZ(ドイツ国際協力公社)などの国際機関とも連携しています。
国や地方公共団体などの公的機関においては、「グリーン購入法」に基づいて環境配慮した商品の購入が進められていますが、この購入基準においてもエコマークを活用いただいています。

製品だけでなくサービスも。多岐にわたる認証対象

具体的な事例としては、近年ではホテルや小売店、ショッピングセンター、レストランなど、サービス分野の施設からの申請が増えています。特にホテル・旅館はインバウンド拡大の影響もあり、認証数が2020年4月時点の23から本年6月には112まで急伸しました。ホテルといっても、都市型のビジネスホテルや自然豊かなリゾートホテル、昔ながらの旅館など多様な業態があり、それぞれの業態に合った環境配慮の工夫には、いつも感心させられています。
また昨年はある自動車の販売ディーラーさんが、業界初のエコマーク認定を取得されました。私どもの「エコマークアワード」という表彰制度で最優秀賞を受賞されました。資本形態が異なる70社以上ものディーラーさんがそれぞれ、各店舗で主体的に環境配慮対策や廃棄物処理を徹底していることが大きな理由でした。製品のように目に見えるものではない場合、何を根拠に認証し、どのように消費者の皆様方にお伝えしていくかが重要となります。審査は書類だけではなく、実際に協会の担当者が現場に出向いて、現場の設備やオペレーションを見たうえで公平に認証を行っています。

マーケティングに活かしやすいエコマーク

――たくさんある環境ラベルの中で、認知度を含めてエコマークがトップランナーになり得た理由は、どんなところにあると思われますか。
山縣 環境省が国策として積極的に推進したこともありますが、何よりも企業の皆様の環境保全に資する商品開発への企業努力が大きいですね。消費者に対する「エコマーク表示に関するイメージ等調査結果」では7割以上の人がエコマークが付いている商品は「エコ商品としてわかりやすい」と回答しているそうですが、エコマークをマーケティングに活用していただいたことで消費者の皆様に認知され、定着してきたのだと思っています。
山縣 以前ある環境イベントに出展し、エコマークを取得したホテルの一覧をパネルで提示したところ、反響がとても大きかったことを覚えています。いろんな方がパネルを見て「〇〇ホテルが認定されたんですね」と感想を口にされていました。エコマークはマーケティングに活かしやすく、わかりやすく訴求できるものなんだと思います。それを見たライバル企業も当然、自分たちも努力しなきゃ、と焦るでしょうし、結果としてまた業界全体に環境意識が高まるという効果は大きいと思います。
――企業だけでなく、個人の意識も変化していると感じられますか?
山縣 SDGsが報道などで認知されたこともありますが、数年前に、約10年ぶりに改訂された小中高の学習指導要領では、環境教育が非常にクローズアップされて盛り込まれたんです。今の若い世代の方々の環境意識の高さに繋がっているのではないでしょうか。時間はかかりますが、教育現場の変化はとても大きな意味があり、将来的には国民全体の意識向上に繋がっていくことを期待しています。

多様なエコマーク認定商品が、消費者とともに持続可能性を高める

――とはいえ、環境問題は喫緊の課題でもあります。課題解決を加速させるエコマーク事務局の取り組みをお聞かせください。また最後に、今後エコマーク取得を目指す企業へのメッセージもお願いします。
山縣 SDGsの目標年である2030年はもう目の前に迫っていますよね。日本環境協会エコマーク事務局では昨年、3つの柱から成る「2030年に向けた中長期事業戦略」を策定しました。
1つ目の柱は、製品やサービスを問わず、できるだけ幅広く認定対象を拡大すること。2つ目の柱は、施設型サービスにおける認知度や、信頼性をはじめとするエコマークのブランディングを確立すること。3つ目の柱はDX推進です。その一環として、Eコマース上の商品のエコマーク表示を進めるため、すでにAmazonビジネス、アスクル、価格ドットコムといった11社のEコマースサイトとデータ連携を完了しました。また、これまで紙ベースで行っていたエコマーク申請もオンラインで可能にしましたので、こちらも企業の皆様の効率化と、申請の活性化につながると考えています。
今でも、エコマークの申請はハードルが高いのではないかという声を時々耳にします。しかし実際には、申請をいただいている企業の多くは中小企業で、エコマークアワード受賞者にも、従業員が数名規模という企業もたくさんいらっしゃいます。是非、企業規模を問わず、積極的にエコマーク取得にチャレンジしていただきたいと思います。持続可能な社会の実現には、企業による商品・サービスの環境性能の向上と、その努力に対する消費者の支持が不可欠です。これからも、企業と消費者をつなぐコミュニケーションツールとして活用いただけるように、様々な環境課題における最新の知見を分かりやすく提供し、市場を先導する環境ラベルでありたいと思っています。

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