地域や自然と共に取り組む 再生可能エネルギーのあるべき姿 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2024.08.22

地域や自然と共に取り組む 再生可能エネルギーのあるべき姿

「脱炭素」をキーワードにしながら、新しいことに挑戦し続ける方々に話を聞く連載『未来を拓くリーダーたち』。第二回は、グローカルリーダーを育てる学校を作り、新しいビジネスモデルにも果敢に挑戦し続ける、自然電力執行役員の瀧口直人氏に登場いただきました。

東日本大震災のわずか3ヶ月後、風力発電事業会社に勤めていた自然を愛する3人の若者が創業したのが「自然電力」です。彼らはバックパッカー同然でドイツに渡り、太陽光発電事業において当時世界2位だったJUWI(ユーイ)社を日本に招聘し、国際ジョイントベンチャーを立ち上げることになります。
以降、自然エネルギー発電事業のみならず、企画・開発から、脱炭素ソリューション、地域ソリューションに至るまで、脱炭素社会の実現を試みる組織や人々に寄り添いながらビジネスを発展させてきました。
自然電力が10周年を迎えるにあたり、執行役員として新たなメンバーに加わったのが今回お話を伺う瀧口直人氏です。Green & Circular編集長の上野とは旧知の仲。まずはその経歴からスタートです。
※再生可能エネルギーや自然エネルギーについて詳しく知りたい方は「クリーンエネルギーとは?意味やメリット、企業事例を解説」をご覧ください。

三井物産時代 手探りで突き進んだ太陽光発電事業

上野 瀧口さんは元・三井物産であり、かつての私の上司という関係性ではありますが、改めて経歴を教えてください。
瀧口 三井物産では化学品を扱う部署におりました。主に材料系を扱う部門だったので裾野も広く、商社なのでお客様が作ったモノの販売もお手伝いもする。そのうちに新しい分野を掘りおこす仕事が中心となり、その商材のひとつが太陽光パネルだったわけです。
瀧口 直人|たきぐち なおと自然電力株式会社 執行役員 事業部門長 / 一般社団法人GBPラボラトリーズ 代表理事・事業責任者慶應義塾大学を卒業後、三井物産株式会社に入社。20代後半で語学修業生として派遣されたスペインで、現地の友人達から「Fernando」というあだ名を拝名。以降、今日まで幅広い人々から「フェルナンド」「フェルさん」と呼ばれて親しまれている。三井物産では化学品部門に所属し、スペイン、ドイツ、アメリカでの駐在経験などを通じ、グローバルの様々な産業との接点を持つ。特に新規事業開発を得意とし、2010~2014年に再生可能エネルギー事業室長として国内再エネ黎明期に日本初の再エネ年金ファンドや東日本大震災被災地初となるメガソーラーの建設などに関与。2021年12月に自然電力に転職。執行役員として再エネを通じて日本の地域を活性化することを目指す事業企画部を設立し、現在、自然電力株式会社 執行役員事業部門長を務める。2023年5月、一般社団法人GBPラボラトリーズ代表理事に就任し、現職。座右の銘は「常時笑顔」。人生のモットーは「Help next generation get to the right place!」
瀧口 直人|たきぐち なおと
自然電力株式会社 執行役員 事業部門長 / 一般社団法人GBPラボラトリーズ 代表理事・事業責任者
慶應義塾大学を卒業後、三井物産株式会社に入社。
20代後半で語学修業生として派遣されたスペインで、現地の友人達から「Fernando」というあだ名を拝名。以降、今日まで幅広い人々から「フェルナンド」「フェルさん」と呼ばれて親しまれている。
三井物産では化学品部門に所属し、スペイン、ドイツ、アメリカでの駐在経験などを通じ、グローバルの様々な産業との接点を持つ。特に新規事業開発を得意とし、2010~2014年に再生可能エネルギー事業室長として国内再エネ黎明期に日本初の再エネ年金ファンドや東日本大震災被災地初となるメガソーラーの建設などに関与。
2021年12月に自然電力に転職。執行役員として再エネを通じて日本の地域を活性化することを目指す事業企画部を設立し、現在、自然電力株式会社 執行役員事業部門長を務める。2023年5月、一般社団法人GBPラボラトリーズ代表理事に就任し、現職。
座右の銘は「常時笑顔」。人生のモットーは「Help next generation get to the right place!」
上野 太陽光発電との出会いはそこからだったんですね。
瀧口 ところが、半導体や液晶もそうですが、最初は日本がリードしているのだけれど中国に抜かれて撤退することになる。
上野 残念ながらその繰り返しでしたね。
瀧口 ご多分にもれず、取り扱っていた日本メーカーの太陽光パネルの販売も厳しくなり、部署の存亡が危ぶまれました。そんな状況を見かねた部下が、「パネルを売るのではなくて、自分たちで太陽光発電所を作りましょう!」と言い出すわけです。
どうせやるなら、「日本のためになるビジネスモデルを作ろう」と、国内で作った再生可能エネルギーを日本のために使える仕組みを作るべく、2010年よりゼロイチに挑戦し始めるわけです。
上野 その思いに触れて、私も参加することになりました。
上野 昌章|うえの まさあき『Green & Circular』編集長三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
上野 昌章|うえの まさあき
『Green & Circular』編集長
三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
瀧口 口で言うのは簡単だけど、本当に大変でしたよね(笑)
上野 でも、志は高かったと思います。日本メーカーの太陽光パネルを使い、日本中の遊休地に太陽光発電所を作り、その電気を日本の産業に使ってもらい、収益は年金基金などを通じて国民に還流させる。そんな仕組みを作ろうとしていました。当時はまだ、固定価格買取制度(FIT)が導入される前で、社内でもなかなか理解してもらえない状況でした。
瀧口 結果的にFITが導入され、日本初の太陽光ファンドを金融パートナーと立ち上げて、全国10ヶ所で同時開発することになったわけです。このモデルはファンも多くて、全国の企業や自治体さんから声がかかった。最終的に、5つのファンド・30ヶ所くらいの発電所が立ち上がりました。それと前後して東日本大震災が起こり、ソフトバンクの孫さんからも声をかけて頂き、更に大規模な発電所の建設に取組むことになるわけです。そんなこんなで、大きな太陽光発電所はもちろん、風力発電など全国でいろいろとやりました。

しかし、会社員は異動がありますから、太陽光発電ビジネスからは2014年に離れるわけです。最後は米国三井物産勤務でしたが、今度はコロナが襲ってきた。そこでもいろいろなトラブルがあって、「レジリエンス・スキル(逆境や困難を乗り越えるスキル)」がどんどんアップしていったわけです。
上野 もともとパワフルだからこそ、だと思いますけど(笑)

今後の人生は 若者を応援する仕事をしたいと退社

瀧口 その後、57歳の役職定年で日本に帰るわけですが、米国ではミレニアルやZ世代向けのビジネスに挑戦していたこともあって、日本でもぜひと思って帰国したのですが、日本の若者は元気がないと感じるわけです。今後の人生は「若者を応援することをしていきたい」と思いを一層強くするようになり、会社を辞めて新たな挑戦をすることにしたんです。
上野 その時点で、自然電力に行かれることは決まっていたのでしょうか。
瀧口 まったく。偶然にも転職活動を始めたタイミングで、「おかげさまで10周年を迎えることができました」と彼らから電話がかかってきたんです。設立当初から自然電力のことは知っていて、面白い人たちなので応援していたんです。そしたら「瀧口さん、いまは何をされているのですか?」「それなら手伝ってくださいよ」となりまして。
上野 その偶然は「縁」ですね。入社されてまずは何から始めたのでしょうか。

嫌われ者になった太陽光発電。打開策としてのグローカルリーダー育成

瀧口 最初の頃は「太陽光発電所の開発で地元との協議がうまくいっていないので、説明会に同行してください」みたいなことが多かったわけです。しかし、地方に行くと7年前とは状況がさま変わりしていました。「もう、お前ら来ないでくれ」「俺たちの土地を荒らさないでくれ」という感じです。
上野 太陽光発電に対する拒否反応が強くなっていた。
瀧口 そうです。「太陽光発電所を作りに来ました」と言っても歓迎されないので、まずは「この地域について教えてください」と対話するようにしました。すると、人口は右肩下がりで減っていて、地方財源は少なく、お年寄りも多いなど問題が山積みなわけです。かといって、補助金制度や企業の地域貢献活動もうまく利用できていない。そもそも、自分たちで地域の課題の本質が理解できていないわけです。

逆に言えば、丁寧に話を聞いて問題を可視化し、プロジェクト化しながら、プロジェクトマネージャーやグローカルリーダーのような立場で解決していくのがよいだろうと思ったわけです。そういう人材がいれば、どうにかなるんじゃないかと。入社半年後には「学校を作っていいですか?」と提案していました。
上野 斬新な視点ですが、経営者である創業メンバーの反応はいかがでしたか。
瀧口 最初は「えぇ?」みたいな感じです(笑)。でも、自然電力には「青い地球を未来につなぐ」というキャッチフレーズがあり、地域を大事にする気持ちが強いので「挑戦してみてください」と。

その際、参加費を無料にしたいので「費用面で3年我慢してほしい」とお願いしました。というのも、授業料をもらうと生徒さんが満足する授業をしなくてはいけない。あくまでも仮説をもとにした実験だったので、「無料」以外は考えられなかったんです。更に、お金がある人だけが学べるものにしたくなった。老若男女、強い気持ちがある人が学べる場所にしたかったわけです。
上野 グローカルリーダーを志している方というのは多いものですか。
瀧口 地域を活性化させたいと考えている人は日本全国にいるんです。でも、彼らの多くは二つの問題を抱えている。一つ目は同じ思いを持つ仲間がおらず、ひとりぼっちでどうしていいかわからない。二つ目に意欲はあるけど知識がない。そこで「仲間が作れて、学べる場」を作れば、自分たちで羽ばたいていけると思ったわけです。

スタートするにあたり、地域プロデュース・企業ブランディングを数多く手がける古田秘馬さんにメンターになってもらい、『グリーン ビジネス プロデューサーズ』(以後、GBP)という実践型ビジネススクール&オーディションを立ち上げました。
上野 どれくらいの人数が集まったのでしょう。
瀧口 第一期はSNS広告を駆使して、結果的に北海道から九州まで選抜できるほどの人数が集まりました。当初の仮説通り、自分の町をどうにかしたいけれど仲間がいないという人たちばかりでした。

地域づくり・環境分野・ビジネスで活躍されている方々を講師に迎えたオンライン学習だけでなく、実際に地域に足を運んで合宿をしながら、アイディアの提案・実践をしていきます。また、その後のキャリアパスも用意して、オーディションで選ばれた人には、プログラム終了後も最低限その地域で暮らせる給料を払って地域貢献をしてもらっています。
上野 授業料も無料で、本気の人は卒業後も支援する。それはすごいですね。
瀧口 第一期は2022年11月~2023年3月におこないましたが、すでに起業家のようになり始めている人も出てきています。また、第一期を終え、より中立な立場になるべきだと一般社団法人にしたんです。GBPが利益を上げても自然電力には還元されない。僕らの本気度を示そうとなったんです。その姿勢に共感してくれるスポンサーも生まれ始めています。

次に求められるのは ネイチャーポジティブへの取組み

上野 グローカルリーダーを育成することで、今後さらにネットワークが増えていくというメリットもあります。GBPをやられて、どんなことが見えてきましたか。
瀧口 ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せること)への取組みの重要性です。各地域をしっかり見ていくと、人間社会が生態系のバランスを崩してきたことがわかります。

再生可能エネルギーを作るのも大事だけれど、「結局は発電所の建設で樹木を伐採したりして自然を破壊しているよね」という話にどうしてもなってしまう。そうであれば、再生可能エネルギーで電力をまかないながら、壊れてしまった自然をもとに戻るところまで貢献する。環境先進地域であるヨーロッパの企業などはすでにそのような取組みが始まっています。
上野 ネイチャーポジティブの代表例としては、ブルーカーボンがありますね。磯焼けしてしまった海を戻すために、藻場の再生に取り組んでいる方々が多くいらっしゃる。
※ブルーカーボンについて詳しく知りたい方は「ブルーカーボンとは? メカニズムや取組み事例 課題をわかりやすく解説」をご覧ください。
瀧口 彼らもまたすごく頑張っているけれど、横のネットワークが希薄だったりするんです。そこで、次はネイチャーポジティブを目指す仲間に出会える場を作ろうと動き出しています。学校も作っていく予定です。
上野 さすが、動きが早いですね。
瀧口 自然電力の使命は再生可能エネルギーの発電所を作ることですが、設置した場所の自然を、これまで以上に戻していく活動もしていきたい。再生可能ネルギーを売るだけではなく、ネイチャーポジティブな取組みから、新しい価値を作り出していければと考えています。

農地や牧草地と共存できる垂直型ソーラー

上野 人材育成以外にも、何か新しい取り組みをされているのでしょうか。
瀧口 先ほど、太陽光発電の建設は嫌われ者という話をしましたが、ロシアのウクライナ侵略を機に潮目が変わり始めています。世界的にエネルギー価格が高騰しただけでなく、肥料や飼料も高騰しました。そのあたりから「自分たちの身は自分たちで守らなくてはいけない」という意識が、国内の地域や行政の中で芽生えてきています。

私たちが提案しているのは、農地や牧草地を活用した垂直型ソーラーでの営農型太陽光発電事業(ソーラーシェアリング)。日本の農地の55%は田んぼ、26%は畑ですが、その次に面積を占めているのが牧草地です。いまや農業も酪農も経営が厳しく、それだけでは成り立たない状況ですので、エネルギーを軸に農業経営の維持を支えるような施策です。
瀧口 まずは説得力を持たせるため、「自分たちの田んぼを作ろうプロジェクト」を始めました。コンクリートは使わず杭を打つだけなので地面を傷めず安価に設置でき、午前中は両面発光の太陽光パネル表面で太陽光を受け、午後は裏面から採光できます。とくに朝夕の発電量が多くなり、ちょうど電力需要のピークに合わせてより多くの発電ができるようになります。

また、垂直型にすると、大型農業機械でも作業できるスペースを確保でき、またパネルに雪が積もりにくいというメリットがあります。雪の反射光や拡散光をとらえるので、冬場の発電量も維持できます。2023年には酪農学園大学の協力を得て、実習用牧草地に垂直型ソーラーを設置する実証実験もスタートしています。
上野 収穫祭の映像を見させていただきましたが、これは画期的ですね。

EVバスのサブスク事業から 脱炭素支援サービスまで

瀧口 あとはEVを積極的に活用する事業開発もスタートしています。Scope1・2は当社の再生可能エネルギー事業で支援できるのですが、Scope3においても何かしら貢献したいという思いからです。
※Scope3についてさらに詳しく知りたい方は、「Scope3とは?全15カテゴリの内容やCO2排出量の算定方法を紹介!」をご覧ください。
瀧口 まずは商用車、中でもバスに着目したのですが、地域のバス会社は日々の運行オペレーションを回すことにリソースが割かれ、脱炭素まで手が回らないわけです。そこで、EVバスのサブスクモデルを企画しました。バス本体のみならず、効率的な充放電計画も含めたエネルギーマネジメントや、太陽光発電由来の電力を使って走るようなところまでパッケージ化したいと考えています。
上野 社会に求められることは何でもされている。
瀧口 脱炭素社会を目指す気持ちさえあれば、「やり方はありますよ」というモデルへとどう変えていくか。そこに挑戦しているところです。
上野 その他にも、企業向けに「脱炭素支援サービス」をされていると伺っています。
瀧口 2022年より、電力由来のCO2排出量を削減できる非化石証書の仲介サービスは始めていました。その後、ボランタリークレジットやカーボンクレジット、あるいは海外拠点のオフセットについての相談があり、各種取り揃えるようになっていたんです。

その一方で、勤務先でサステナビリティ推進担当や脱炭素担当者として配属されたけれど、社内で相談相手がおらず何をしていいかわからないという方もたくさんいらした。そういう方に寄り添うため、チャットサービスを立ち上げようとしています。また、共通の悩みをもった企業向けにウェビナーをやると、毎回200社くらい参加されるんです。
※カーボン・オフセットについて詳しく知りたい方は「カーボン・オフセットとは?必要性から企業の取り組み事例までを紹介」をご覧ください。
※脱炭素の取り組み方法について詳しく知りたい方は「脱炭素の正しい進め方と考え方」をご覧ください。
上野 当サイト『Green & Circular』も、そういった方々に読んでほしいという思いがあるんです。
瀧口 そうですよね。最近は経営者の方から、社員の知識レベル・意識レベルを上げていかないと、「2030年カーボンニュートラル」の目標に追いつかない。そこで研修をやってほしいというニーズもあって、「脱炭素リスキリング講座」もやっています。

常時笑顔。人の話をきくこと。それが基本

上野 瀧口さんは三井物産時代から変わらない突破力で、新しいビジネスを次々と開拓されています。その秘訣は何でしょう。
瀧口 常時笑顔でいること。そして、人の話を聞くこと。シーズ(企画力)でもニーズでも、それが基本ですから。そのうえで仮説を立てるわけです。間違っていた時には指摘をしてもらえる。そうすると次の仮説が生まれていき、ブラッシュアップされていくわけです。
上野 なるほど、お客様視点の基本ですね。それにしても、瀧口さんにお会いするといつも元気が出ます。今後も脱炭素社会の実現に向けたご活躍を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

連載『未来を拓くリーダーたち』

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