世界が注目する高品質なリサイクル・ポリプロピレン樹脂とは?
生活に身近なプラスチックの一つであるポリプロピレンですが、既存のリサイクル方法(マテリアルリサイクル)では用途が限定されてしまう素材でもあります。米国のPureCycle Technologies(ピュアサイクル・テクノロジー)社は、独自技術でヴァージン品質同等のポリプロピレン樹脂を抽出。その技術力を含め、今後同社と三井物産で進めようとしている日本国内でのプロジェクトについて話を聞きました。
海洋ゴミ問題やCO2排出削減の観点から、世界的にプラスチックのリサイクル活用が求められています。プラスチックのなかでも大きな割合を占めるポリプロピレン樹脂は、添加剤が多く含まれていることがネックとなり、そのリサイクル素材の活用用途が限定されてしまう課題があります。この問題を克服し得る技術を持った米国PureCycle Technologies(ピュアサイクル・テクノロジー)社と共同で、高品質な再生ポリプロピレン樹脂製造事業を展開する三井物産。2026年の国内生産を目指すなか、4名の担当者にその技術や今後の展望、課題を聞きました。
──皆さまが所属されるポリオレフィン事業室について教えてください。
井上 ポリオレフィン事業室は、ポリプロピレンやポリエチレンといったプラスチック原料を扱う部署となります。現在19名のメンバーがおり、うち約10名が米国PureCycle Technologies社(以下PCT社)とのプロジェクトに従事しています。
三井物産株式会社 パフォーマンスマテリアルズ本部 機能材料事業部 ポリオレフィン事業室 井上隆太。2021年キャリア入社。前職ではポリエチレンやポリプロピレンといった合成樹脂及び、それらを使用したフィルム製品のトレーディングを担当。入社後はポリオレフィン事業室にて、PureCycle Project案件他、事業投資とトレーディングの双方に従事している。
用途が幅広く生産量も多いポリプロピレン樹脂
──PCT社と共同で、ポリプロピレン樹脂(以下PP)のリサイクル事業がおこなわれようとしています。そもそも、生産されるプラスチックにおけるPPの割合はどれくらいなのでしょうか。
井上 現在、日本では年間約1,000万トンのプラスチックが生産されています。そのうち、PPは全体の約23%を占め、ポリエチレンと並んで最も生産量が多いプラスチックになっています。
──PPはどのような製品で使われているのでしょうか。
髙田 PPが利用されている範囲は幅広く、包材、自動車部品、家電、マスク等に使用されています。ただ、同じ包材に利用されるケースでも国ごとに違いがみられるケースもあります。例えば、日本では包材の中でも軟質フィルムなどにPPが利用されるケースが多いですが、米国ではボトルなどの硬質の包材に使用されているケースも多くみられます。
三井物産株式会社 パフォーマンスマテリアルズ本部 機能材料事業部 ポリオレフィン事業室 髙田直人。2018年入社。主にポリオレフィン樹脂のトレーディング業務に従事。PureCycle Projectでは主に国内の原料調達を担当している。
バージン品質同等にリサイクルできる独自技術
──私たちの生活に身近にあって、幅広い用途で利用されているPPをリサイクルするというわけですね。
井上 はい。使用済みプラスチックを、再びプラスチック製品の原料に戻すことを「マテリアルリサイクル」と呼び、従来からPPのマテリアルリサイクルはおこなわれてきました。例えば、マテリアルリサイクルされたPPは、パレットや雨水の貯水タンクの生産に利用されています。しかしながら、PPは着色料等の添加剤を多く含んでいることから、マテリアルリサイクルしても色味や臭いなどが残ってしまい、利用できる製品の種類が限定されてしまうといった課題があります。
これに対し、PCT社の技術は、添加剤等のPP以外の物質を取り除き、高い透明性や原料由来の臭気が無いといったバージンPPと同等品質の再生PPを生産する技術を確立し、大きな脚光を浴びています。
──その独自技術については、のちほど詳しくうかがいたいのですが、今までは廃材となっていたPPをどのように処理していたのでしょう。
井上 マテリアルリサイクルが出来ない使用済みPPは、主に燃料として利用し、その排熱を回収するサーマルリサイクルという方法で処理してきました。こちらもリサイクル手法のひとつではありますが、燃焼を伴うためCO2が排出されてしまいます。そのため、CO2排出量削減の観点から見れば、マテリアルリサイクル率をほぼ100%に高めることが望ましいと言えます。
──リサイクルには他に、ケミカルリサイクルという方法もあるとうかがっています。両者の違いを教えてください。
井上 ケミカルリサイクルは、廃プラスチックをさまざまな手法で化学的に分解し、モノマーや油等に戻して再利用するリサイクル手法です。プラスチックをモノマーまで戻すことで、透明な再生プラスチックを作ることはできますが、一般的にマテリアルリサイクルと比較して大きなエネルギーが必要となり、またその過程でCO2排出量も大きくなることが想定されます。PCT社のマテリアルリサイクルはそれ程多くのエネルギーを必要とせずに、バージン同等品質の再生PPができる点に優位性があります。
──では、PCT社の具体的なリサイクル方法を教えてください。
井上 PCT社の米国プラントでは、まず回収されたPPを含む廃プラスチックを光学選別機に掛け、PPの比率を高めた原料を用意します。その後、それらの原料を溶媒に入れ、PPだけを選択的に溶かし込みます。この時点でほぼPPのみ溶媒に溶けているのですが、わずかにPP以外の物質も溶媒に溶けており、それらを次の工程でフィルターを用いた精製を行うことで除去し、純粋なPPを取り出します。一連のプロセスを経てできあがったPPは透明で、なおかつ臭いなども取り除かれており、極めてバージン原料に近い高品質なものになっています。
PCT社のオハイオ州のプラントでは、こうして年間約5万トンの再生PPを生産するプラントを建設しており、2023年から商業生産開始予定となっております。
——米国では、PCT社のリサイクルPP「Ultra Pure Recycled Polypropylene(以下UPRP)」が、商業生産開始前にも関わらず、長期間に渡って完売と伺いました。どのような企業から引き合いがあるのでしょうか。
井上 さまざまな企業から引き合いがありますが、P&Gやロレアル(L’OREAL)といった大手消費財ブランドオーナーを中心に販売が決まっています。
──そうした企業が「UPRP」を購入する理由を教えてください。
井上 それらのブランドオーナーは環境意識も高く、自社製品のプラスチック包材などに使用する再生プラスチックの比率を増やすことをステークホルダーに対してコミットしています。従来のマテリアルリサイクルPPでは、透明性などの品質基準を満たすことができず、ブランドオーナーの求める用途に利用することができませんでした。しかし、PCT社の「UPRP」であれば、高い透明性や原料由来の臭気がないといった特徴からさまざまな用途に利用することが可能になります。
UPRPの使用が想定される用途例
──「UPRP」を求める企業は、今後も増えていくのでしょうか。
井上 増えていくと思います。消費財ブランドオーナーだけでなく、自動車メーカーや家電メーカーにも再生プラスチックを積極的に使用していこうという動きがあり、今後需要は伸びていくと考えています。
オハイオ州にあるPureCycle Technologies社の商業プラント(2023年1月商業生産開始予定)
オハイオ州にあるPureCycle Technologies社のパイロットプラント
国内プラントの建設へ。2026年の商業生産を目指す
──日本において、PCT社と三井物産で、「UPRP」を生産して販売する計画があると伺っています。オハイオ州のプラントを拝見すると、かなり大きな規模のようです。
ベッチー 将来の拡張性も考えて、最低でも4万平米以上の広い敷地を検討しています。原料のサプライヤーや顧客の工場の位置、またユーティリティの充実度などを考慮して、複数の候補地を選定し、絞り込みをおこなっている最中です。
三井物産株式会社 パフォーマンスマテリアルズ本部 機能材料事業部 ポリオレフィン事業室 ベッチールンバンガオル。2013年にインドネシア物産にキャリア入社。2019年に研修生として来日し、2020年に同室に異動。インドネシアでは主に家電・自動車部品向けのポリエチレン樹脂の物流事業を担当。現在は物流やサステイナビリティ関連の事業開発に携わっている。
──プラントの竣工や稼働のスケジュールを教えてください。
髙田 2026年に商業生産を開始することを目指しています。商業生産開始時の生産能力は年間5〜6万トンになる予定で、現在はそこで原料となる使用済みPPを集めるため、各地のリサイクル業者や地方自治体と話をしています。
仲田 環境意識への高まりもあり、良質なリサイクル原料は、PETボトルに代表されるように争奪戦になっています。リサイクル業者の立場からいえば、過去にはお金をもらって処分していたものを、今ではお金を払って仕入れるようになっています。一方で、家庭ごみ等は、リサイクル原料としてこれからさらに市場に出回る可能性も大きく、原料調達手段の一つとして注目しています。
三井物産株式会社 パフォーマンスマテリアルズ本部 機能材料事業部 ポリオレフィン事業室 仲田汐里。2010年入社。鉄鋼業界で厚板輸出業務に携わり、環境問題に取り組みたい想いから、2021年に同室へ異動。合成樹脂や再生原料の三国間・輸出入物流業務を担当する他、国内資源循環に向けた新規事業立ち上げにも注力している。
プラスチックのリサイクル率向上にむけて
髙田 2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」もあり、廃プラスチックのリサイクルは今後さらに加速することが予想されます。リサイクル業者の立場では、原材料の安定調達が大きな課題となるかもしれません。
──「プラスチック資源循環促進法」の話が出ましたが、本当はリサイクルできるのに、廃棄されるプラスチックもまだかなりあるのでしょうか。
井上 自治体によって廃プラスチックの分別・回収ルールに違いがあるため、リサイクルされずに焼却処分される廃プラスチックもまだ存在しています。今後はプラスチックを分別・回収する自治体が増えることが予想されます。
──原料は、日本国内で確保することになるのでしょうか。
仲田 バーゼル法というルールによって、ごみの輸出入は制限されていることもあり、原料調達は原則として国内でおこなうことを考えています。
──最後に、「UPRP」をはじめとする、高品質な再生プラスチックを普及させていくにあたっての課題を教えてください。
井上 今後も技術革新を進めていきますが、現時点では「UPRP」に限らず、高品質な再生プラスチックはどうしても価格が高くなってしまいます。欧州では、消費者がプレミアムを払って環境保護につながるリサイクル素材を使った製品を購入する土壌があります。
一方で、日本の場合は「リサイクル品は品質が良くない代わりに、安く買えるもの」という感覚が根強く、このあたりの意識改革が必要だと感じています。そのためには、我々もプラスチックのリサイクル率を向上させ、環境保護をおこなうには高品質なリサイクル品の活用が必要なことを、積極的に訴えかけていかなくてはと考えています。
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