Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション資源循環

最終更新:2023.03.02

そのほとんどが廃棄・焼却されていたラベル台紙の水平リサイクル

ラベルを製造・使用するにあたり必要不可欠な台紙を「剥離紙」から、水平リサイクル可能な「リサイクル専用台紙(剥離フィルム)」に置き換え、使用済み台紙をユーザーから有価回収する「資源循環プロジェクト」。その取り組みについて話を聞きました。

食品や日用品をはじめ、至るところで使用されるラベルは、消費者が普段目にすることが無い製造プロセスにおいて、台紙から剥がして製品などに貼り付けられます。台紙を意識することはあまりないと思いますが、日本国内だけでも年間で約13.9億㎡、東京ドーム約3万個分にのぼるラベル台紙が使用されており、そのほとんどが廃棄・焼却されてきました。三井物産ケミカルが共同開発企業として推進する「資源循環プロジェクト」は、このラベル台紙を水平リサイクルすることを、サーキュラー・エコノミーの具体策として社会実装させる取り組みです。そのいきさつ、今後の課題や可能性について聞きました。

従来のラベル台紙はリサイクルができない

──ラベル台紙とはなにか、というところから教えてください。
坂野 ラベルは基材、粘着剤、台紙の3層構造となっており、基材とラベル台紙が粘着剤によって貼り合わせられています。この基材の表面に印刷を行い、型抜きを施すことでいわゆるラベルの形状となり、自動貼付け装置(通称ラベラー)などを介して製品に貼り付けられます。この時、ラベルの表面基材と粘着剤は製品に貼り付けられますが、台紙だけが不要となり残ってしまいます。
三井物産ケミカル株式会社 サーミュラーエコノミーチーム 兼 中部支店 機能性化学品室 坂野昌隆。2005年、三井物産ソルベントコーティング株式会社に入社。安貿、業法関連業務を経て、2013年以降、中部支店にて東海地区の化学品全般の営業活動に従事。2021年より同社サーキュラーエコノミーチームも兼務し、当社が掲げる「ESG/SDGsを意識した取組への挑戦」に合致する案件探査に注力中。
──残されたラベル台紙は、これまでそのほとんどが廃棄され、焼却処分されていたとうかがっています。ラベル台紙のリサイクルは難しいのでしょうか。
増田 従来のラベル台紙は剥離紙と呼ばれ、紙の表面に離型剤のシリコーンコーティングやポリエチレン樹脂のラミネートが施されています。紙のみであれば古紙としてリサイクルが可能ですが、剥離紙は紙と樹脂の複合材料のため、分別・リサイクルが困難な材料です。この剥離紙をリサイクルに適したPET合成紙製の「リサイクル専用台紙」に置き換え、ユーザーから使用後のラベル台紙を有価回収し、マテリアル・リサイクルをおこなうことで、再びリサイクル専用台紙の原料に使用する「循環型リサイクル」スキームを確立しています。
──では、この「資源循環プロジェクト」が始まったきっかけについてうかがいます。
増田 「資源循環プロジェクト」を考案し、市場展開を模索していた粘着加工メーカー・日榮新化から、当社関西支店を介し、三井物産関西支社に相談いただいたことがきっかけでした。その後、当社本店・機能製品室の取引先であるトッパンインフォメディア(凸版印刷グループのラベル製造・販売会社)につなげたことで、2021年7月より、フィルムメーカーの東洋紡を含めた4社で共同プロジェクトが始動しました。その後、「リサイクル専用台紙」を使用したラベルの品質評価に目途が立ったタイミングで、ユーザーの立場でシオノギファーマに参加いただくことになり、2022年3月、実証化を目的とした共同開発契約を5社で締結し、現在の形に至っています。
三井物産ケミカル株式会社 本店営業本部 機能材料部 機能製品室 室長 増田潤一。1996年三井フラー株式会社入社。三井物産ソルベント・コーティング株式会社を経て現職に至る。印刷関連向けの接着剤や感熱紙に関わる原料製品の販売に長期に渡り従事。顧客とアイデアを出し合い、最終製品の開発に関わる営業活動を展開。
 共同開発企業5社の役割は、PET合成紙「カミシャイン®」をベースとした「リサイクル専用台紙」を製造する東洋紡、「リサイクル専用台紙」を用いて粘着加工を行う日榮新化、粘着加工されたラベル原紙に印刷、型抜き加工を施すトッパンインフォメディア、こうしてつくられたラベルを使用するシオノギファーマです。当社は、これら企業の取り組みをコーディネートする立場として、環境価値の定量化や営業戦略の推進などをおこなっています。
また、日榮新化のリサイクル設備・工場導入では、三井物産プラントシステムが全面的に取りまとめをおこない、三井物産グループの総合力を発揮して本プロジェクトをサポートしています。
三井物産ケミカル株式会社 本店営業本部 機能材料部 機能製品室 岡時範。2021年キャリア入社。前職では車載向け及びコンピューターネットワーク機器向け電子部品の営業を担当。入社後は感熱紙原料のトレーディングに加え、当社環境方針「商品・サービスの提供、既存・新規事業についての環境への配慮」に沿う資源循環プロジェクトの普及に注力。

水平リサイクルによる「資源循環プロジェクト」

──この循環型プロジェクトは、具体的にどのように回っているのでしょうか。
増田 シオノギファーマなどユーザー側で発生する使用済み「リサイクル専用台紙」は、ヤマトボックスチャーター社の「JIT BOXチャーター便」を活用した専用回収BOXを通して、日榮新化・三重工場に有価回収されます。同工場で、最終分別工程・リサイクル工程を経て、フィルム原料となるペレットの状態までマテリアル・リサイクルし、東洋紡に納入されます。東洋紡では、同ペレットを使用し「リサイクル専用台紙(カミシャイン®)」を製造し、これらが再び日榮新化の粘着加工に使用されるスキームです。
専用回収BOXは、資源循環プロジェクト公式HPから設置・回収依頼を入力すれば、国内ほとんどの地域に手配が可能となっています。また、設置・回収に掛かる費用はプロジェクトで負担し、日榮新化の最終分別行程を経た重量に対し、20円/㎏をユーザーに支払います。ラベルユーザーの立場では、これまでお金を掛けて廃棄していたラベル台紙を資源として販売できるメリットがあると言えます。
──水平リサイクルであると同時に、CO2排出量削減にもつながるとうかがっています。
 プロジェクトでは、代表的なラベル構成において、製品のライフサイクルで排出されるCO2排出量を取り纏めた「LCA算出モデル」を公表しています。代表的なラベル構成から、台紙だけを「リサイクル専用台紙」に置き換えた場合、12.4%のCO2排出量削減効果、台紙に加え、基材もリサイクル原料を使用したラベル(日榮新化「エコマスラベル」)に切り替えた場合、23.9%のCO2排出量削減効果が確認されています。これらは、客観性と信頼性がある数値を確立するため、三井物産と国内唯一のカーボンフットプリント認証機関SuMPOが共同開発した、製品単位のGHG排出量を可視化するプラットフォーム「LCA Plus」を用いて算出しています。
──このプロジェクトは世界的に見ても類がない、斬新な取り組みとのことですが、ほかでは真似ができない理由はどこにあるのでしょう。
増田 まず、東洋紡が作る「リサイクル専用台紙」は、リサイクル適性がありコストバランスにも優れた素材です。また、リサイクル原料を使用しているだけでなく、化学発泡による軽量化を実現しています。そのため、従来の剥離紙から置き換えることで、環境負荷低減に加え作業効率の向上に繋がります。その他、使用済み台紙を回収するスキームや、最終分別・リサイクルする技術もほかでは真似できません。ラベル台紙の回収、リサイクル、再利用の循環システムそのものが、この資源循環プロジェクトの強みと独自性につながっています。
──このリサイクルは、何回でも可能でしょうか。
増田 現在、ラボレベルでの検証を行い、回収材料を使用した「リサイクル専用台紙」と従来の専用台紙が同等物性である事が確認出来ています。東洋紡と日榮新化で従来品同等の品質保証を行うことを前提に、リサイクル回数・リサイクル率については、検証を続けています。
坂野 2024年4月から日榮新化の新工場が稼働し、水平リサイクルが本格的にスタートしますが、最初から充分な使用済み「リサイクル専用台紙」が回収できるとは想定していません。「リサイクル専用台紙」にはペットボトル・リサイクル原料が25%以上入っていますが、今後は本プロジェクトを拡充することで、ペットボトル・リサイクル原料をすべて使用済みラベル台紙でまかなうことが理想です。
──現在、年間で約13.9億㎡ものラベル台紙が生まれていますが、このうちの何%をリサイクルする予定でしょうか。
坂野 まずは全体の3%程度、年間400万㎡を2025年度に達成するところからスモールスタートしたいと考えています。プロジェクトの輪を広げれば広げるだけ、廃棄物ならびにCO2排出量の削減といった社会貢献の度合いも大きくなりますので、数量はもちろん大切だと考えておりますが、まずはしっかりと品質・信頼を積み上げていくことを最優先に考えています。

品質が良く医療・食品・工業用途にも使用できる

──ラベル台紙のリサイクルを普及させるための課題についてうかがいます。たとえば、「リサイクル専用台紙」のほうがコスト高になるということはあるのでしょうか。
 コストについては従来のラベル台紙と同程度を目指していますが、同時に「リサイクル専用台紙」を環境価値の側面から積極的に利用してくれる顧客を募っていきたいと考えています。現在は、製薬業界、飲料業界や半導体業界の方々に関心を持っていただいています。というのも、日榮新化は「最高クラス1000(実測値クラス100)」というクリーン環境で加工する技術を有しているため、医薬品や食品、精密機械など、幅広く高度な提案をすることが可能です。

プロジェクトの意義を広く認知させることが課題

坂野 コストを下げることに努めるのはもちろん、「資源循環プロジェクト」の意義を広めることが重要だと考えます。剥離紙はこれまで、マテリアル・リサイクルされずに廃棄・焼却されてきたこと、そして、マテリアル・リサイクルが可能で高品質な剥離フィルムがあることを広く伝えていきたいです。このプロジェクトの意義を多くの方に知っていただくことも、三井物産ケミカルの仕事だと思っています。
増田 環境省、経済産業省と経団連が創設した「J4CE注目事例集2022」に選定されたことは大きな意味があると思っています。このような枠組みも活用しながら、資源循環プロジェクトをもっと周知させていきたいと考えています。
坂野 このプロジェクトは、廃棄物とCO2排出量を減らすことができ、日本のマテリアル・リサイクル率の向上にも寄与すると思います。「地球環境に優しいことが重要と理解していても、コストがかかると環境貢献活動に足踏みをする」のがこれまででしたが、最近では川上から川下まで、さまざまなレイヤーでの環境意識の高まりを感じます。
増田 現場では、「資源循環には興味があるけれど、なかなか踏み込めない」という声も耳にします。しかし、資源循環プロジェクトについて説明すると、多くの方に「自社でも出来そう」と感じていただけます。これまで捨ててしまっていたものを再利用するだけで、環境に配慮した取り組みになることをアピールしていきたいです。
──最後に、このプロジェクトの未来と可能性についてお聞かせください。
坂野 ラベル台紙のリサイクルは、我々が先陣を切って取り組んできました。この取り組みは、海外の環境課題に対するソリューションにもなり得ると考えておりますので、三井物産グループの総合力で、世界にも広めていきたいと思います。
増田 今までは、ほぼ100%廃棄・焼却処分されていたラベル台紙のリサイクルを、少しずつでも進めることに意義があると思っています。0だったものが1になり、やがて10になる。樹脂化合物はリサイクルが難しいと言われる中、ラベル台紙のリサイクルを実現できました。油で汚れたプラスチックや樹脂化合物はリサイクルが難しいなど、困難はいろいろとあると思いますが、この資源循環プロジェクトを通じて世間に一石を投じ、サーキュラー・エコノミーを国内外で加速させていきたいと思います。
──本日はありがとうございました。
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