1秒毎に消失する森林を守りたい。持続可能な森林保全とは - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューション資源循環

最終更新:2025.03.12

1秒毎に消失する森林を守りたい。持続可能な森林保全とは

企業と地域社会が連携し、持続可能な未来を築くための森林保全の取組みを紹介します。

稀代の音楽家、坂本龍一氏は2023年に逝去し、世界中が深い悲しみに包まれました。しかし、彼の素晴らしい作品と同じく、環境問題への強い意識も今なお受け継がれています。坂本氏が特に強く危機感を抱いていたのは、急速に失われる森林の問題です。2007年には森林保全団体「more trees」を設立し、環境保全に尽力してきました。今回は、一般社団法人more treesの事務局長である水谷伸吉さんに、森林保全の現状の課題や団体の活動内容、未来への想いを伺いました。

強烈な危機感「このままでは反動がくる」

植樹の様子
——団体設立の背景を教えてください。
水谷 坂本は生前、さまざまな社会課題にコミットしていましたが、特に地球規模で減りゆく森林の問題に関心を強め、2007年に法人化に至りました。歴史上、文明が滅んでしまう原因は、森林など自然資本の収奪が過度になり、それにより文明の保持が不可能になることにあったともいわれています。現代社会でも、このまま自然資本を枯渇させるような経済が続くと、いつか大きな反動が来てしまうという危機感があり、森林保全団体を立ち上げるに至りました。
残念ながら坂本は他界してしまいましたが、長年の盟友である建築家の隈研吾が代表となり、私たちは今も活動を継続しています。
水谷 伸吉(みずたに しんきち)
水谷 伸吉(みずたに しんきち)
一般社団法人more trees 事務局長
1978年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、株式会社クボタに入社し、環境プラント部門に従事。2003年にNPO団体に転職し、インドネシアでの植林を軸に熱帯雨林の再生に取組む。2007年、坂本龍一氏の呼びかけによる森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画。以来、事務局長として日本各地での森づくり、国産材プロダクトのプロデュース、熱帯雨林の再生、カーボンオフセットなど多彩な活動を手掛けている。
——坂本さんが憂いていた森林の問題は今、どのような現況なのでしょうか。
水谷  日本では戦後、伸びる木材需要に応えるために拡大造林が進み、全国的にスギやヒノキの植林が推奨されました。こうして現在でも国土の約7割が森林に覆われていることは、先進国のトップ3に入る森林率として誇れることです。しかし地球規模でみれば、1秒間にテニスコート12面分もの森林が失われていると言われています。2025年1月にはカルフォルニア州で大規模な森林火災もありましたが、地球のどこかで刻一刻と、伐採や火災によって森林が消失しているのが現状です。
陸地において有史以来、人間の手で改変されてしまった範囲は約75パーセントに及びます。その影響もあり、1970年から現在に至るまでに生物種の約70%が減少してしまったそうです。一方で森林や海など、自然資本に依存する経済創造価値は約44兆ドル、世界の総GDPの半分以上を占めています。人間の経済活動そのものが自然環境に支えられている。こうした現状を顧みずに、自然を収奪しながら豊かな生活をしていくことや経済発展を遂げることは、すでに限界に達していると思います。
——気候変動の影響による森林火災も増えているのでしょうか。
水谷  カルフォルニアやオーストラリアなどの森林火災は自然発火が多いのですが、大規模な広がり方をした理由のひとつとして、異常な乾燥が挙げられています。要因はやはり気候変動の影響であり、それがなければもう少し被害も小さかったかもしれません。
またインドネシアや南米アマゾンにおいては、熱帯雨林を切り開いてプランテーションの開墾や、畜産用の放牧地を作る目的で火入れをするなど、人為的要因の森林火災が多発しています。もちろん経済目的の森林伐採も大きな問題で、カナダでは州法の範囲内ではあるものの、自然の回復量を上回る伐採が進んでいることが問題視されています。

企業ニーズと植林を繋ぐ窓口として

——more treesの活動について、教えてください。
水谷  日本国内での活動は大きく二つあり、ひとつは「造林未済地」への植林です。日本の森林は豊かであるものの、戦後に植えられたスギやヒノキは樹齢50〜60年を超え、伐採可能な時期にあります。適切な伐採がされること自体は良いのですが、伐採後もそのままになった場所が年々増加し、そうした禿山はすでに国内で伐採された面積の約65パーセントに達しています。土砂災害の原因にもなりやすく、生物多様性の面でもマイナスになるため、植林を行っています。
植林する樹種も考慮しています。戦後は、広葉樹に比べて早く真っすぐ育つスギやヒノキが重宝されましたが、現代では、かつて生育条件の不利な場所で植えられたスギやヒノキが採算割れをしています。そこで、企業の支援により、その土地の気候風土に適した複数の広葉樹を中心に植林しています。我々は「多様性のある森づくり」と名付け、現在は全国約20地域で進めているところです。
北海道足寄町の植樹イベント
——植林は企業がサポートしているんですね。
水谷  企業には植林に掛かる費用をご負担いただき、現地での管理や運営は森林組合などに依頼しています。私たちは、まるで空き家の活用を進める不動産業者のように、まずは市町村への確認を取って、土地の所有者を明確にすることから始めます。所有者は誰なのか、そこに企業を受け入れるニーズはあるのか、1件1件マッチングを行い、全て私たちが窓口となって植林計画を作っています。土地の広さはいろいろで、これまで1ヘクタールから、最大だと28ヘクタール(※東京ドーム約6個分)ほどの時もありました。
国の造林補助金が出る場合もありますが、それ以上に掛かる費用のご負担を企業にお願いしています。予算は、中小企業の皆様にもなるべくコミットしていただけるような最低寄付額を設定し、期間は、最低3年間に設定しています。しかし今のところ、3年で契約を終えられた企業はいませんね。
植林の目的もさまざまですが、なかには将来的に一部を伐採して収益化、つまり経済的価値となる可能性を見越して植林するケースもあります。例えば和歌山県で管理している森林では、備長炭の材料になるウバメガシという樫の木を植えて、木々の活用までを計画しています。
また、某シューズブランド様では、社内のエンゲージメント強化やチームビルディングに貢献できているようで、これまでは都内に集合していた全国の店長会議が、同社の寄付先である奈良の森で開催されるようになりました。実際に森を体験することで、寄付の意義も含めて実感いただけるようです。今では各店舗のスタッフからも参加希望が増え、毎回社内公募が満員になるほど全国から通っていただいています。
——ではmore treesの、もうひとつの活動についても教えてください。
水谷  二つめは、カーボンオフセットです。脱炭素に注目が集まる今、産業界では、再エネの導入や省エネの促進に加え、CO2吸収源としての森林に着目する機運が非常に高まっているからです。そこでJ-クレジット制度に準拠したかたちで、各地域の森林が吸収したCO2をクレジット化し、買い手とマッチングする活動を行っています。
事例として、某保険会社様では北海道での植林活動に加えて、同じ町内にある別の森林が吸収したJ-クレジットを購入いただいています。最近はこうした合わせ技の事例も増えてきました。
出典:カーボン・オフセット | 活動紹介 | 一般社団法人more trees
出典:カーボン・オフセット | 活動紹介 | 一般社団法人more trees
——地域社会と関係性構築が、more treesの活動を発展させる上で重要となりそうですね。
水谷  森林管理の作業で中心的な役割を担うのは、地元住民の方や事業体の方々ですので、こうした皆様との連携は必須です。基礎自治体である市町村、森林組合、そして最近は造林に目的を絞ったベンチャー企業とも連携することも増えました。
地域のなかには、外からの風が入ることで人の交流が生まれたり、これまで住民がやりたくても進まずにいた課題が共有され、良い方向に展開した事例も多々あります。訪れる人が増えることで地元の宿泊業などに良い影響も出ますし、企業の社員が個人的にふるさと納税したと聞くことも少なくありません。森づくりを起点に、森だけではなく、地域全体が元気になることにも貢献できていたら嬉しいです。

「我が子を育てるように」森林保全は次世代への希望

——今後も森林保全活動を持続していくために、重要になることは何でしょうか。
水谷 地域だけで森づくりを進めるのは、資金面や人的リソースなどにおいて、どうしても限界がありますので、脱炭素や生物多様性保全に積極的な企業とパートナーシップの構築は非常に重要だと捉えています。また大学や研究機関など、専門性の高いアカデミアの声も取り入れながら、産官学民が連携したパートナーシップを構築する必要もあります。私たちは橋渡し役として、都市と森を、そして、企業と地域をつなぐことに今後も一層注力していこうと考えています。
国外ではフィリピンとインドネシアでも活動をしていますが、他にも森林減少が激しい地域や国は多いため、今後は東南アジアやアフリカなど、国外でも管理エリアを広げていきたいです。
——生物多様性やネイチャーポジティブという観点で企業ができることは何でしょうか。
水谷 例えば、J-クレジットも1トン単位で購入できますし、もっと手軽なことでは、間伐材など木材を活かした企業のノベルティ制作、あるいはオフィスの内装に国産の木を取り入れるといったことも大事な活動ですよね。森づくりやカーボンオフセットへの取り組みは、こうした小さなステップの先にあることなので、事例を積み重ねて、自然に実現へ向かうことが理想だと思います。
そのためにも一時のキャンペーンで終わることなく、長く関わっていただくことは非常に大事です。植林はどうしても苗木が大きくなるまでに数十年掛かるので、例えば5年といったら企業にとっては中期計画でも、植林の時間軸でいえば本当に短期間です。植林してから3年なんて、人間で言うとまだ生後数ヶ月です。息の長い仕事を見届けるのは難しいかもしれませんが、樹木の時間軸をイメージしながらご一緒していただきたいと思います。
——森林保全の取組みを社内で浸透させるポイントや、more treesと企業の共創について、教えてください。
水谷 植林体験にいらっしゃる企業の皆様の中にはときどき、当初はまったく乗り気ではない、業務で仕方なく来たと感じる方もいます。しかし実際に植林を体験すると、最後はみんな晴れやかな表情になります。社員研修として植林のフィールドを使っていただくケースもありますし、日帰りで森林体験ができる現場であれば、より多くの社員に来ていただくことも可能です。
ある企業では、森林で子どもたちと一緒に拾ったどんぐりを種として苗木を育て、各自の苗木の様子をLINEグループで情報交換しながら育てています。観葉植物の感覚でどんぐりの苗木を育てるなんて、楽しいですよね。
企業の皆様にはぜひ我が子を育てるように、次世代へバトンタッチする未来を描きながら取組んでいただけたらと思います。さまざまなセクターとお互いを補完しあうような連携ができたら、私たちもとても心強いです。世界的な森林課題の解決に向けて、一緒に取組んでくださることを心から願っています。

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