ごみ埋立地のメタンガスから再生可能天然ガス(RNG)を生産
ごみの埋立地から発生するメタンガスを処理して、再生可能天然ガス(RNG)を生産・販売する米国Terreva Renewables(テレヴァ・リニューアブルズ)社。同社に三井物産が出資する理由、再生可能天然ガス事業の意義、可能性について話を聞きました。
アメリカでは、温室効果ガスの削減に大きく貢献する「再生可能天然ガス(RNG=Renewable Natural Gas)」の需要が伸びています。日本ではあまり聞き馴染みがありませんが、そもそもRNGとは何なのか、そして日本でも普及する可能性はあるのでしょうか。
CO2削減に大きな効果のある再生可能天然ガス(RNG)
──まず、再生可能天然ガス(以後、RNG)とはどのようなものか、というところから教えてください。
石渡 ごみの埋立地や酪農場からは、メタンを含むバイオガスが発生します。これを回収して精製をおこない、都市ガスや自動車の燃料として使えるようにしたものがRNGです。
石渡 稜|いしわた りょう
三井物産 エネルギーソリューション本部 カーボンソリューション事業部 クライメートマーケット室 コマーシャルマネージャー
2018年入社。入社後、エネルギー第二本部にて中東におけるLNGプロジェクトの管理・推進を担当。2021年より現本部にて、RNG(Renewable Natural Gas)上流事業開発に取り組み、直近は米国においてRNGの製造・販売を手掛けるTerreva Renewablesへの出資を担当
──RNGの活用は、温室効果ガスの削減にどのように貢献するのでしょうか。
石渡 例えば、アメリカでは年間1.46億トンの都市ごみが埋立地で処理されており、ここから有機物由来のメタンが大気に放出されています。メタンの温室効果はCO2の25倍とされていますので、ごみ埋立地が放出するメタンを減らし、有効活用することは社会的に大きな意味がある事業です。
カリフォルニア州大気資源局の基準では、単位エネルギーあたりのCO2発生量を次のように定義しています。ディーゼルを100とするとLNG(液化天然ガス)が88、RNGは55以下と少なくなっており、特に酪農由来のRNGはマイナス283と、CO2削減に大きな効果があると位置づけられています。
Climate Watch,The World Resource Institute,2020 をもとに 当サイトにて作成
──ごみ埋立地と、酪農や食料残滓のRNGでは、精製方法が異なるのでしょうか。
石渡 ごみ埋立地の場合は、地中でガスが自然発生するので井戸を掘って回収し、近接するプラントでCO2や硫黄分を除去して、都市ガスのパイプラインに流すことができる品質までアップグレードします。
酪農場や食料残滓の場合は、ドーム型のプラントで嫌気性発酵を促してバイオガスを引き出す工程になります。嫌気性発酵というのは、酸素に触れない状態で活動する微生物の働きによって有機物を分解する方法で、分解の過程でバイオガスが発生します。
──ごみ埋立地と酪農残滓のRNGは、それぞれ別のデベロッパーが担当するケースが多いのでしょうか。
石渡 ごみ処理と酪農や食品では生産工程のみならず、原料供給者の業種も交渉相手も異なるので、別のデベロッパーが担当しているケースも多いかと思います。
──バイオガスをメタンガスに精製する技術は難しいのでしょうか。
石渡 バイオガスをパイプラインスペックに精製する前の段階で発電をおこなう技術は、2000年代までには確立しています。また、バイオガスからCO2や硫黄分を除去する技術も既に普及しており、それほどハードルが高いものではありません。既存の技術で対応できるものです。
アメリカでRNGの需要が伸びている背景
──三井物産は、米国Terreva Renewables(以後、Terreva社)に出資してRNG事業を推進すると聞いています。Terreva社について伺う前に、アメリカでRNGの需要が伸びている背景からお聞かせください。2022年には対前年比でRNG消費が17%増えたと聞いています。
石渡 まずひとつに、アメリカにはガスパイプラインが張り巡らされているという事情があります。RNGをパイプラインに注入して他の都市ガスと一緒に流通させやすい土壌がありました。
もうひとつ大きいのが、輸送燃料にRNGを使うと優遇措置が受けられるという制度設計です。トラックなどの燃料にRNGを使うと、使用量に応じてクレジットが発行される米国連邦制度があります。また、カリフォルニア州やオレゴン州といった環境への取り組みに先進的な州では、連邦制度に加えて独自に低炭素な輸送燃料にクレジットを発行する州制度も導入されています。
また、州によっては都市ガスにおける低炭素なガスの混入量の目標を掲げており、これに呼応して地場の都市ガス会社がRNG調達を進める取り組みも加速しています。加えて、製造業で天然ガスの消費がある企業が、自主的にRNGの調達をする事例も増えています。
──アメリカのガス需要のうち、RNGの割合はどの程度になると予想していますか。
石渡 一番アグレッシブな予想だと、2050年で10%未満程度ということになっています。現実的にはそれよりはコンサバティブな割合と予想しますが、順調に需要が伸びると期待しています。もちろんRNGでガス需要をすべてまかなうことは難しいのですが、先ほどお話ししたように温室効果ガスを削減するソリューションとしては大きな意味があると思っています。
日本でRNGが普及する可能性はあるのか
──制度整備などによっては、日本でもRNGを展開することは可能なのでしょうか。
石渡 日本でも国内制度上の位置づけとして、バイオマス燃焼由来のCO2排出量は温対法(地球温暖化対策推進法)上の算出対象外となっています。バイオガス適地から都市ガスパイプラインまでの距離であったり、ごみ埋立地や酪農場における米国とのスケール感の違いという課題はありますが、今後開発が進むことが期待されます。
三井物産がTerreva社に出資する理由
──三井物産は北米において、Terreva社と共にRNGを推進すると発表しています。Terreva社に出資をした理由はどこにあるのでしょう。
石渡 Terreva社は、すでに北米で5つの埋立地由来のプラントでRNGを製造・販売しています。今後もさらにプラント数を増やしていく成長戦略があり、当社としてのRNGバリューチェーン拡大戦略との親和性があることから、一緒に事業を運営していくことを決めました。
米国ウィスコンシン州にあるTerreva社のRNG生産設備
──今後、三井物産がこの事業を広げていく際の強みを教えてください。
石渡 三井物産は米国において、天然ガスをはじめとするエネルギー商品のトレーディング・マーケティングにおける取り組みがあり、RNGもこうした物流事業の実績・知見が活かせると考えています。
また、三井物産はアメリカでLNG(液化天然ガス)や、天然ガスを原料とするメタノールの生産事業にも取り組んでおり、こうした事業とのシナジーを追及することでもバリューチェーン拡大余地があると考えています。また、より長期的な視野で見れば、水素や合成メタンへもバリューチェーンを広げていけるポテンシャルがあると考えています。
──このバリューチェーンの中で、三井物産の果たす役割はどのようなものになりますか。
石渡 役割分担で考えると、やはり顧客基盤拡充での貢献をまずは目指していきたいと思います。
──2024年3月に、バイオガス由来のバイオメタンをキャメロン社がLNG化してタンカーで日本に運び、東京ガス扇島LNG基地に受け渡したというニュースがありました。
石渡 ご存知のように、日本のエネルギー源は天然ガスに頼っている割合が多く、そのほとんどを海外の資源に頼っています。ガスの低炭素化というのは国内のリソースだけではなかなか難しい環境にあるので、今回の件は小さいながらも最初の一歩という位置づけになると考えています。
カーボンニュートラル社会実現に向けた海外産バイオメタンの輸入 - 三井物産株式会社
──今後、この事業に取り組むにあたって、モチベーションになっていることをお聞かせください。
石渡 弊社の場合、天然ガスというのは非常に重要な商材で、取り扱い額も大きいものです。一方で、長期的にお客様のニーズに応え続ける上では、脱炭素化のソリューションも並行して考えていく必要があると考えています。RNGによる脱炭素ソリューションをお客様に提供し、結果として世の中全体の脱炭素化につながるよう、長期的な視点で考えていきたいと思っています。
北米でのRNG活用を検討されている方、脱炭素化ソリューションをお探しの方、まずはお気軽にお問い合わせください!
Green & Circular メールマガジン登録
脱炭素・カーボンニュートラル担当者必読の最新記事やイベント情報を毎月1〜2回お届けしています。登録ページからメールアドレスをご登録ください。