持続可能な森林モデルで 新たな価値を創出する三井物産の森 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューションカーボンオフセット

最終更新:2024.11.20

持続可能な森林モデルで 新たな価値を創出する三井物産の森

全国75か所に、合計約45,400ヘクタールを有する「三井物産の森」。この広大な自然資本を有効活用し、「持続可能な森林モデル」を目指して管理・運営するサステナビリティ経営推進部の取り組みを紹介します。

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森林、土壌、水、大気、生物資源等、自然によって形成される資本を「自然資本」として評価する動きが、世界的に高まっています。三井物産もまた、社有林「三井物産の森」を自然資本としてとらえ、適切な森林管理をおこなうことで新しい価値づくりに挑戦しています。

多様な人材でつくりだす 持続可能な森林モデル

――三井物産の社有林である「三井物産の森」を経営・管理されているチームと伺っています。まずは皆様の簡単な経歴を教えてください。
江崎 私は以前、ニュートリション アグリカルチャー本部に在籍し、主に農業資材事業を担当してきました。現在は、当社のサステナビリティ経営における三つの重要な社会課題の一つ「自然資本」と、当社の貴重な資産である「社有林」を軸に仕事をしています。
江崎 翔|えざき しょう三井物産 サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室 室長補佐2010年入社。入社後、機能化学品本部にて肥料原料の輸入内販を担当。その後、インド駐在、ニュートリションアグリカルチャー本部戦略企画室、同本部アグリサイエンス事業部(農薬販売事業)を経て、2023年9月よりサステナビリティ経営推進部にて、TLとして自然資本・社有林全般を担当
江崎 翔|えざき しょう
三井物産 サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室 室長補佐
2010年入社。入社後、機能化学品本部にて肥料原料の輸入内販を担当。その後、インド駐在、ニュートリションアグリカルチャー本部戦略企画室、同本部アグリサイエンス事業部(農薬販売事業)を経て、2023年9月よりサステナビリティ経営推進部にて、TLとして自然資本・社有林全般を担当
細島  「三井物産の森」の現場管理をしている三井物産フォレストから出向している細島です。保有者である三井物産と管理主体である三井物産フォレストの連携が重要ですので、出向によって一体感を強めています。もともとは、山林の管理や現場監督、測量などをおこなっていました。現在は、その知見を森林経営に活かすべく仕事をしています。
細島 彩起子|ほそじま さきこ三井物産 サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室2013年、三井物産フォレスト入社。入社後、北海道帯広山林事務所、同平取山林事務所、東京山林事務所にて社有林管理を担当。2023年度から三井物産株式会社サステナビリティ経営推進部に出向、社有林主管業務を担当
細島 彩起子|ほそじま さきこ
三井物産 サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室
2013年、三井物産フォレスト入社。入社後、北海道帯広山林事務所、同平取山林事務所、東京山林事務所にて社有林管理を担当。2023年度から三井物産株式会社サステナビリティ経営推進部に出向、社有林主管業務を担当
庄司  私は環境省からの出向で、以前、自然環境分野を所轄する部局に在籍していたこともありました。現在は社有林の「戦略的価値活用」の促進を担当しています。主には、「自然資本」に関する社外開示、社内のルールづくりへの支援や、役所との懸け橋などをしています。
庄司 友|しょうじ とも三井物産サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室2016年、環境省入省。国内の気候変動対策(カーボンプライシング等)の検討や、自然環境保全に関する法律の改正、総合職事務系の新卒採用人事等を担当。2024年1月より三井物産株式会社サステナビリティ経営推進部に出向(官民交流)、社有林の戦略的価値活用の検討や自然資本に関する対外開示等を担当
庄司 友|しょうじ とも
三井物産サステナビリティ経営推進部 グローバル環境室
2016年、環境省入省。国内の気候変動対策(カーボンプライシング等)の検討や、自然環境保全に関する法律の改正、総合職事務系の新卒採用人事等を担当。2024年1月より三井物産株式会社サステナビリティ経営推進部に出向(官民交流)、社有林の戦略的価値活用の検討や自然資本に関する対外開示等を担当

国際的にも注目される自然資本とは?

――自然環境と同じく、多様性に溢れたメンバーですね。「自然資本」というキーワードが出てきましたが、これはどのようなものなのでしょう。
江崎 簡単に言うと「資本」の一種です。財務資本や人的資本など、人類が社会活動をするためにはさまざまな資本が不可欠ですが、自然もその一つという考え方です。農業は水資源や土地・土壌等の自然資本が無ければ成り立ちません。そのように、我々の経済活動のみならず人類の社会活動はさまざまな「自然資本」によって成り立っています。

また、自然資本には再生可能なものとそうでないものがあります。化石燃料や鉱物資源は再生しませんが、水資源や森林資源、土壌等は保全することで再生していきます。消費されてしまった自然を再生し、消費よりも再生が上回るような回復基調にしていくことを「ネイチャーポジティブ」と呼んでいます。当社は、中期経営計画2026でも、事業を通じた「ネイチャーポジティブ達成」への貢献に取り組むことを掲げています。
庄司 これまで自然資本はタダ同然で扱われてきましたが、本当は自然資本がなければ、環境・経済・社会どれにとってもよい状態に繋がらないことから、価値があるものだと認識されるようになってきています。今後、自然資本は社会にとって必要な資本の一つとして評価されていくと考えています。
――「三井物産の森」も自然資本であるということですね。
江崎 はい。三井物産では、日本国内75か所に、国土面積の約0.1%に相当する合計約45,400ヘクタールの社有林を保有しています。そこでは、現在も国内における年間生産量の約0.1%(約4万m3)にあたる木材を安定的に供給しています。

CSR(企業の社会的責任)的な側面が強かった時代もありましたが、当社として、この広大な社有林を保有していることによる社会的責任をしっかり認識し、2021年に新たな森林経営・管理方針を策定しました。森林の適切な経営・管理をおこなうことにより「持続可能な森林モデル」を構築し、経済的にも持続可能な森林経営を通じた「脱炭素社会の実現」に貢献することを目指しています。
全国75か所、合計約45,400ヘクタールある社有林「三井物産の森」
全国75か所、合計約45,400ヘクタールある社有林「三井物産の森」

持続可能な森林は 適切な森林管理によって生まれる

――「持続可能な森林モデル」とは具体的にどのようなものなのでしょう。
江崎 森林が持つ多様な機能を守り育て、発揮できるような森林づくりを実現するための適切な森林管理をおこなうことです。持続可能な森林モデルによって、「公益的機能の発揮」「カーボンクレジット創出」「森林資源の活用」を推進し、脱炭素社会への貢献を目指します。また、森林の経営・管理に必要なコストは削減せず適切に使用しながら、DX活用を通じたスマート林業の導入など生産性向上にもつなげています。
――森を守るだけではなく、新たな価値を創出していこうというわけですね。
細島 日本は戦後の焼け野原の中、本州ではスギやヒノキを、北海道ではカラマツやトドマツといった針葉樹を盛んに植えてきました。しかし、木材として活用できるまでに育つには、50~60年という長い歳月がかかります。日本ではその間に木材輸入が始まり、プラスチックや鉄といった素材が普及するなど、林業を取り巻く環境が変化し木材価値が落ち込んでしまいました。国内では山林がビジネスとしては成り立ちにくい環境になってしまったわけです。

一方で、約45,400ヘクタールもの社有林は、同業他社にはない貴重かつ膨大な公益的価値を提供し得る重要な資産です。そのことを踏まえ、2006年の経営判断により事業本部からコーポレートに経営を移管し、長期保有することとなりました。現在は、林業収入だけでなく、さまざまな価値を社有林及び社有林が産出する素材から引き出し、それを当社グループ及び社会で活用することを目指す、持続可能な社有林経営に挑戦しています。
北海道 沙流山林(さるさんりん)のミズナラ
北海道 沙流山林(さるさんりん)のミズナラ
――「経済的にも持続可能な森林経営」とも謳っています。三井物産の森では、木材販売以外にどのような収益があるのでしょうか。
江崎 当社グループ会社と協働し、間伐材等の未利用材から抽出したオイルを活用した化粧品販売など、森林事業だけではなく、森林の活用を通じて当社グループ全体の収益につながるような取り組みを推進しています。また、森林Jクレジットの取り組みは、当社エネルギーソリューション本部やデジタル総合戦略部と協働し、当社全体のネットワークを活用したビジネスとして拡大しています。
――商社ならではの強みはどのような点で生かされていますか。
江崎 当社には16の事業本部があり、林業との接点においても多くのポテンシャルがあると考えています。また、関係会社も広範な産業をまたいでおり、例えばオイルを抽出する会社、香料を製造する会社など、グループ会社でサプライチェーンをつなぐこともできる。それらネットワークの広さに強みがあります。
――「公益的価値」とはどういったものでしょう。
江崎 森林が持っている普遍的な機能の価値のことです。例を挙げると、雨水を蓄積、浄化させ地下水として流れ出てくる、水源涵養(かんよう)機能があります。そういった環境で生まれた水を我々はタダ同然で社会活動に使用していますが、本来森林はこのような機能を発揮し高い価値を有するものなのです。

適切に管理された森がなければ、土砂崩れなど災害にもつながります。普段の活動では明確に認識・実感することが難しく、無くなった時に初めて実感する。そういった機能全般がもたらす価値を「公益的価値」と表現しています。
森林の公益的機能
森林の公益的機能
庄司 当社の社有林に携わるようになってから気づかされたのですが、すべては適切な森林管理という土台があるからこそ、公益的機能の発揮・カーボンクレジットの創出・森林資源の活用といったものができるわけです。

多様な管理手法が 多様な森林を育む

――なるほど。森林管理のプロである細島さんから見て、三井物産の森にはどういった特徴があると感じますか?
細島 長期的な視点でサイクルを作っている点が特徴です。一例として、北海道に多いカラマツの人工林は30~40年で木材として使える大きさに成長しますが、当社では50~60年かけて保育するとともに、森林が持つ公益的機能を長期にわたり安定的に維持させるようにしています。

また、伐採して苗木を植えるといった「循環林」だけでなく、現在ある木を少しずつ調整しながら「天然林」に誘導していくエリアもあります。その他、尾根筋に近いところは防風のために広葉樹を残すなど、地形の特徴に応じて管理手法を変えている点も特徴のひとつです。
――山林の特性を見極め、多様な価値を提供されているわけですね。
細島 はい。その他にも、全社有林の面積の1割を「生物多様性保護林」と区分にしており、そこからさらに森林の性質ごと「特別保護林」「環境的保護林」「水土保護林」「文化的保護林」と4つの区分をしています。

「特別保護林」は一部が国立公園に指定されているため、そのルールに沿った管理をしています。「環境的保護林」は希少生物が多くいるところで、生息環境を保護しています。「水土保護林」では、水源としての機能や土砂崩れを防ぐことに注力した管理をおこなっています。

「文化的保護林」においては、北海道/沙流山林でのアイヌ文化の保全、振興活動への協力や、京都の清滝山林では、京都モデル協会との協定に基づき、地域の方々の「森づくり体験活動」の場を提供し、その活動を通じて育成されたアカマツやコバノミツバツツジが、「京都五山送り火」や「鞍馬の火祭」での薪や松明の材料として使用されています。
伝統行事「五山送り火 大文字」
伝統行事「五山送り火 大文字」
庄司 政府では環境省が中心となり、自然環境分野の中期目標として、2030年までに陸域・海域の30%以上を保護・保全する「30 by 30」というターゲットを定めています。この目標を達成するための施策の一つとして、民間の活動などによって、生物多様性の保全が図られている区域を国が認定する「自然共生サイト」の取組みが始まっています。

先ほど話にあった清滝山林は、地域文化保護の一端を担っている生態系サービスの価値が認められたことで、2024年2月に、三井物産の森の山林では初となる「自然共生サイト」の認定を受けました。今後も、「三井物産の森」が社会に提供している多様な価値を示すべく、他の社有林についても登録を増やしていくことを検討中です。

LEAPアプローチを用いた分析を実施

――北海道にある石井山林では、LEAPアプローチによる分析をおこなったと伺っています。LEAPアプローチについて教えてください。
庄司 簡潔に言うと、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」という企業の経済活動と自然資本との関わりを開示していくフレームワークのもとで、企業の事業活動における自然資本に関する重要なリスクや機会などを、適切に評価・開示するための手法の一つです。

LEAPの語源は「Locate(自然との接点の発見)」「Evaluate(依存/インパクトの診断)」「Assess(重要なリスク/機会の評価)」「Prepare(開示/報告に向けた準備 )」の頭文字を取ったものです。
江崎 LEAPアプローチを社有林経営で用いる事例は多くなく、一般的には、鉱山事業や養殖事業などの事業現場において、自然への依存・インパクト、リスク・機会の分析、推奨される評価・開示フレームワークに沿った対応が進められています。
――LEAPアプローチをおこなう目的はどこにあるのでしょう。
庄司 まずは、我々の森林管理が適切であるかを客観的視点で見直すことに着目しています。LEAPアプローチでは、国際的に推奨されている透明性の高い方法でそれを裏付けることができます。対外的な視点では、TNFDに沿った開示要請が世界的に強く高まっている中、当社としても真剣に取り組んでいる姿勢を投資機関やステークホルダーに発信することができる点があります。
――実際、北海道の石井山林ではどのような結果が出たのでしょう。
細島 石井山林は、木材資源を収穫しつつ天然生林へと誘導する森林、水土保護林によって構成されたユニークな山です。最大の特徴は、可能な限り自然の力を利用することで幼木を育て、森林を再生する手法(天然更新)をとっている点。人工的な植栽作業を削減することで、コスト削減においても注目されている手法でもあります。

このような管理により、石井山林は周辺の山林に比べて生物多様性が保全されており、水の涵養や土壌調整・保持、炭素貯留にも優れていることがLEAP分析からも明らかになりました。
北海道 石井山林
北海道 石井山林
庄司 詳細な結果はHPをぜひ見ていただきたいですが、当社の社有林管理が、生物多様性の保全や、森林の持つ公益的価値の発揮という観点で、自然に対してポジティブなインパクトがあることが可視化できたということです。
――最後に、三井物産の森を通じて叶えたい夢を教えてください。
細島 三井物産の森が挑戦している「持続可能な森林」づくりが、全国の林業界に波及していく。そんな将来を夢見ています。
庄司 多様な価値を提供している「三井物産の森」の魅力を、もっと世の中の人に知ってほしいと考えています。また、生物多様性の保全など公益的価値の発揮を、持続可能な森林経営によって実現していく。その分野での日本のリーディングカンパニーになっていきたいです。
江崎 「持続可能な森林」という土台をしっかりと作り上げ、100年先も200年先も続くものにしたいと思っています。それが、日本の国土保全と豊かな社会を次世代に引き継ぐことにつながると考えています。
――本日はありがとうございました。

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