Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション再エネ

最終更新:2023.08.17

設備のメンテナンスから洋上風力を支え、国内電力の自給自足を目指す

三井物産は、北拓とともに洋上風力発電設備のメンテナンスをおこなう「ホライズン・オーシャン・マネジメント」社を設立しました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けた、洋上風力発電の現状と期待、またメンテナンス事業の重要性について、担当者に話を聞きました。

脱炭素社会の実現を目指すなか、海に囲まれた日本は洋上風力発電の導入ポテンシャルの高い国だといわれています。その一方、これまで日本には「洋上産業」があまりなく、そのノウハウを蓄積している段階です。そのようななか、洋上風力発電設備のメンテナンスを軸とする「ホライズン・オーシャン・マネジメント」(以下、HOM)をなぜ立ち上げたのか。さらには、洋上風力発電の現状や課題について話を聞きました。

洋上風力発電は再生可能エネルギーにおける切り札

――改めて、脱炭素社会に向けた洋上風力発電のメリットを教えてください。
今富 脱炭素社会の実現には、再生可能エネルギーの導入が必要不可欠です。なかでも、洋上風力発電は沖合に大規模に導入できること、他の電源と比べても発電コストが下がってきており、競争力のある電源になってきたことなどから、再生可能エネルギーの切り札ともいわれています。昨今の地政学的なリスクを考えると、資源に乏しい日本でエネルギーが作れることも大きな魅力です。
三井物産株式会社 鉄鋼製品本部 次世代事業開発部 エネルギー事業室 今富元洋。2000年入社。入社以来、ロンドン・オスロ・シンガポール駐在を経て主に石油・ガス開発案件向け鋼管販売を担当。2016年より洋上風力案件向けサプライチェーン構築取組を開始、2021年よりエネルギー事業室で再生可能エネルギー分野におけるサプライチェーン関連事業の企画・実行を担当。
――海に囲まれた日本は、洋上風力に適した場所と考えてよいのでしょうか。
今富 はい。風況などの観点から、日本の洋上風力のポテンシャルはアジアでもトップクラスです。ある試算では、日本の電力需要の約2倍の発電ポテンシャルがあるともいわれています。
――洋上風力発電は欧州がリードしているようですが、日本の洋上風力の現状はいかがでしょうか。
今富 欧州が先行している理由は、古くから石油やガスの掘削といった洋上産業がおこなわれており、その知見が蓄積しているためです。設備のみならず、人材やエンジニアリング含め、その知見を洋上風力に移行させています。一方、日本では洋上産業がほとんどなく、新たに知見を獲得する必要があります。技術力やもの作りノウハウ、きめ細やかなサービスといった素地は十分にありますので、今後いかにスケールを持った事業にしていくかが重要と思います。
出典:洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)(案)」

洋上風力設備に使われる部品は約2万点近くある

――2030年までに、日本全体で約2兆円の経済波及効果があるともいわれています。洋上風力の導入には、期間やコストはどれくらいかかるものなのでしょうか。
今富 企画から運転開始まで、長いもので10年を要することもあります。コストに関しては、原子力発電1基分に相当する発電容量1GWで2,000億円の費用がかかるイメージです。実際のプロジェクトでは、発電容量0.3~0.5GW、1,000億円規模のものが多いと思います。費用の約3割が設計や資機材費などの初期費用で、約7割が維持・管理などのサービス費といわれています。
西田 洋上風力は2万点近くの部品で構成される精密機械です。そのため故障も多く、これを維持・管理して安定的に発電することが重要です。国内で製造可能な部品もなかにはありますが、現在は日本製の部品は少なく、政府は2040年までに部品を含めた、総コストの60%を国内でまかなうことを目指しています。私たちがホライズン・オーシャン・マネジメントを設立した背景には、洋上風力発電の維持・管理を通して長期に安定的にエネルギーを供給することは、日本の国益にも資するという考えもありました。
三井物産株式会社 鉄鋼製品本部 次世代事業開発部 エネルギー事業室 西田高志。2013年入社。入社後、金属経理室にて案件形成支援および海外工場への出資を担当。その後、金属資源業績管理室にてニッケル・アルミ、石炭を担当。2017年のポルトガル留学を経て、モザンビークにてガス・石炭・港湾開発の現地対応を担う。2019年よりエネルギー事業室に着任、2021年ホライズン・オーシャン・マネジメント社を設立。その他買収案件にも対応中。

メンテナンスを担うことで、洋上風力に関する幅広い知見が得られる

――三井物産は、いつ頃から洋上風力に関心を寄せていたのでしょうか。
今富 私たちは、以前から石油・ガス会社に鋼材供給をしてきました。そのなかで、石油掘削をおこなう企業が、洋上風力発電にシフトする動きを目の当たりにしてきました。当社は2012年にスコットランドのグローバルエナジーグループに出資をしていますが、まだ石油エネルギーが中心であった当時から、同社も新しい産業として風力発電に注目していました。
――メンテナンスに注目したことには理由がありますか。
西田 欧州での動向を踏まえながら国内に目を向けると、多くの企業が洋上風力のメンテナンスにまで意識が及ばず、発電事業者は将来困るであろうと感じました。また、メンテナンスを請け負うためには、洋上風車のあらゆる故障に対応しなければなりません。案件開発に長くて10年、完成後も20年以上運用するためには、長期に渡ってのメンテナンスが必要になります。逆にいえば、メンテナンスを通して洋上風力に関する多くの知見を獲得することができ、そこから事業に広がりが生まれるという期待がありました。
――風力発電におけるメンテナンスの難しさはどこにあるのでしょうか。
西田 船で現地におもむくこと、不安定な場所でのメンテナンス、故障しやすい精密機器の取り扱い、2万点からなる部品の中からの故障箇所の特定、高層ビルよりも高い場所に登っての風車メンテンナンスといった難しさがあります。また、海底送電線は船の錨が引っ掛かるなどの事故が多く、ときには海中でメンテナンスをおこなうこともあります。表面部分ではドローンの活用もありますが、多くは人手に依存しており、洋上風力のメンテナンスには危険がともないスキルや経験が重要です。

事業組成から操業まで一貫したサービスを提供

――HOMの主軸はメンテナンスですが、事業組成、調達、製造、輸送、据付、操業まで幅広いサービスを用意されています。
西田 「事業組成」では、O&M(Operation&Maintenance)戦略といって、20~30年の長期運用計画を立てます。洋上風力のメンテナンスは危険を伴いますので、O&M戦略が重要な計画の一つとなります。「調達・製造」では、部品の製造工程に間違いがないかを検査(資機材検査)します。「輸送」では、構造物の積港・揚港での検査、日本での受入検査、原材料の追跡確認などをおこないます。「据付」は基地港湾内や洋上における基礎構造の点検・修繕サービスです。このような一貫したサービスを提供することができるのも、メンテナンスを通して得た知見があるためです。
――国内外さまざまな会社と提携されているのは、たくさんの知見が必要だからということですね。
西田 風力発電は、過去には1~2MW/基の発電容量だったものが、最近では14MW/基にまで巨大化しています。これにともない、世界中で事故や故障が増えている現状があります。HOMは現在、国内外の20社程度と提携し、メンテナンスにあたっていますが、「事故や故障を防ぐ」「発生時に適切に対処して安定運用する」「まだ見えていない課題に対処する」といった観点で、さらに知見を蓄えていくことが必要かもしれません。
――洋上風力は黎明期ということですが、普及に向けた課題は何でしょうか。
今富 よくいわれることは、3つのS(Scale・Speed・Sustainability)です。ここでいうSustainabiltyは「持続性」と「予見性」を意味します。案件開発は長期間にわたり、投資も巨額になるため、Sustainabiltyの観点が重要であり、メンテナンスが重要だと捉えることができます。
――今後のビジョン、このビジネスを通じて実現したい夢を教えてください。
西田 日本だけでなく、世界的にも洋上風力は黎明期であり、米国をはじめ、台湾、ベトナム、韓国といったアジア諸国も力を入れています。風力発電のポテンシャルがトップクラスの日本ですので、3つのSで先行して知見を集積し、日本から海外へと展開していきたいです。
今富 まずは再生可能エネルギーの切り札と呼ばれる、洋上風力発電の発展に貢献したいと思います。また、冒頭に地政学的というお話しをしましたが、資源の少ない日本で電力の自給自足をぜひ実現していきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
洋上風力発電にはさまざまな技術が必要です。ご興味を持たれましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

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