Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション可視化

最終更新:2023.04.11

生活者の脱炭素アクションを促進する「Earth hacks」

生活者一人ひとりのアクションを促進することで、脱炭素社会の実現を目指す共創型プラットフォーム「Earth hacks(アースハックス)」。メディアでの情報発信を始め、マルシェの開催、新たなCO2排出量削減指標「デカボスコア」の導入など、さまざまな取り組みをおこなっています。その発想の起点や取り組みの詳細について話を聞きました。

「Earth hacks(アースハックス)」 は、三井物産と博報堂による共同プロジェクトとして2022年より本格始動しました。現在、大きな注目を集めているのは、生活者が購入する商品が、従来品と比較してどれだけCO2排出量を減らせているかを数値化した「デカボスコア」です。デカボとは脱炭素を意味するデカボナイゼーション(Decarbonization)の略。生活者の脱炭素アクションを促すために生まれたこの指標ですが、企業にとっては優れたマーケティングツールとなっています。「Earth hacks」誕生の経緯、その目的、さらには取り組みの詳細について話を聞きました。

生活者のアクションが変わらないと「脱炭素」は実現できない

――メディアでの発信、デカボスコア、マルシェの開催など、「Earth hacks」の活動は多岐に渡っています。そもそもはどのようにスタートしたのでしょうか。
関根 三井物産のエネルギーソリューション本部は「脱炭素」を重要な社会課題と捉えています。なかでもNew Downstream事業部は、より消費者に近い川下の事業に取り組んでおり、スマートシティや都市データの活用などを行っています。消費者目線での脱炭素を考えるきっかけは、このような取組みの中からでした。

日本のCO2排出量は、消費ベースで60%以上が家庭から排出されています。これを考えると、企業のCO2削減努力も大切ですが、生活者のアクションが変わらないと「脱炭素」は実現できません。そのためにはインフラを整えることも大切ですが、インフラさえ整えれば生活者がアクションを起こしてくれるものでもありません。
例えば、「ゼロカーボン先進街区」と呼ばれる場所には、太陽光発電やEV車両と充電機、家庭用の消費電力モニターなどが完備されていますが、そこではEV車に乗っている住人も少なく、こういったインフラがあまり活用されていないのが実情です。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業新事業開発室 関根澄人。東京工業大学大学院生命理工学研究科生体システム専攻修了。学生時代に細胞学を研究しながら、生物多様性や地球温暖化など環境問題を伝えていくことを仕事にしたいと思い、博報堂に入社。入社後は営業としてさまざまな企業のブランディングなどを担当し、博報堂従業員組合の中央執行委員長を経て、2020年よりミライの事業室ビジネスデザインディレクター。 2020年4月から三井物産に出向中。
――脱炭素社会の実現のためには、インフラ整備と並行して、消費者の行動変容が必要だということですね。
関根 そうです。では、どうすれば生活者が脱炭素のアクションを起こせるのか?博報堂が行った「生活者の脱炭素意識&アクション調査」では、生活者の80%以上が「脱炭素」を認知し、興味を持っていますが、実際に脱炭素アクションを取っている生活者は3%に過ぎませんでした。

※「生活者の脱炭素意識&アクション調査」【①意識篇】日本の生活者に脱炭素意識はどの程度浸透しているか?2021年9月調査結果

脱炭素アクションに必要なのは「欲望×ストーリー」と「貢献実感」

――生活者は「脱炭素」や「カーボンニュートラル」が気になってはいるものの、これまでと変わらない生活を送っているわけですね。
関根 はい。「なぜやらないのか?」は明快で、生活者は「何をすれば良いか」がわかっていませんでした。では、何であれば始められるのか。見えてきたキーワードが2つあります。
1つは「欲望×ストーリー」です。脱炭素に限らず、人がアクションを起こすには「美味しい」「楽しい」「嬉しい」といった欲望が満たされることが必要です。環境への貢献のために高額な商品や美味しくないもので「我慢をする」ことはアクションにつながりません。加えて、その商品や企業を応援したくなるストーリーがあることも重要です。
――言われてみれば当然のことかもしれません。
関根 2つめは「貢献実感」です。自らのアクションがどの程度環境に貢献しているのかが分からないと、本当に意味のある行動なのか確信が持てずにアクションに至りません。また、最近ではSDGsを積極的にアピールしていても実態を伴わない「SDGsウォッシュ」が問題視されるなど、生活者は企業が提供する排出量の数値や情報を、猜疑心をもって見ています。こういった信頼性を確保することも、貢献実感をもってもらうためには重要です。最近では、「流行っているサステナブル商品を買ってください」という宣伝や売り方が散見されますが、生活者の購買心理と大きく乖離したアピールになってしまっています。
――企業が語る「脱炭素」や「サステナブル」が、営利目的に見えているわけですね。
関根 生活者は、自分が好きなものや普段使っているものが、実はサステナブルであると分かると、自己肯定感が高まって、リピート購入やファン化につながることがわかってきました。サステナブルであることは、それ自体が主要な購買決定要因にはなりませんが、付加価値として生活者に受け入れてもらえるわけです。
このような「生活者目線」での洞察が、Earth hacksの原点になっています。生活者の脱炭素アクションを促進するために、まずはCO2排出量の「可視化」が必要と判断しました。

マーケティングにおける武器としての「可視化」

――生活者目線での可視化は珍しいですね。
関根 CO2排出量の可視化に取り組む企業が増えていますが、多くの企業はステークホルダーへの報告目的で可視化をおこなっている状況で、可視化されたデータをマーケティングに活用するといった「攻めの脱炭素」をおこなう企業はまだまだ少ない印象です。そこで、Earth hacksは、生活者に向けたマーケティングの武器として、守りではなく「攻めの脱炭素」を掲げたわけです。
――生活者に向けた「攻めの脱炭素」を実現するうえで、まず何から始めたのでしょうか。
関根 先ほどお話しした「欲望×ストーリー」と「貢献実感」をどう作っていくかということで、Earth hacksに共感してくれる商品サプライヤーを募り、生活者の欲望を満たすストーリーをつくり出すために、「商品の魅力」「メーカのこだわり」「環境価値」を洗い出し、それをPRするメディアをつくりました。環境価値においては、当該商品を買ったときのCO2削減インパクトを可視化した「デカボスコア」を表示しています。
これまで、CO2排出量をどう算出して良いかわからない企業も多くあり、デカボスコアは中小企業から決済プロセスにハードルのある大企業に至るまで、幅広くご利用いただいています。
――デカボスコアは、CO2e(CO2換算の数値)〇〇%オフという表示が特徴的です。
関根 生活者に、貢献実感にもつながるCO2削減インパクトを伝えるには、「この商品はCO2を1.3Kgしか出していません」と言うよりも、「従来品と比べてCO2排出量が30%少ない」と言ったほうが伝わります。「特価品〇〇%off」「糖質〇〇%off」「〇〇%カロリーoff」など、インパクト(貢献の大きさ)を伝える表示には、一般にパーセンテージが用いられます。また、日本政府の脱炭素化に向けた目標も、「2030年までに温室効果ガスを46%削減する(2013年比)」とされています。
――CO2排出量を可視化するツールとして、スウェーデンのDoconomy社製「The 2030 Calculator」を採用した理由はなぜでしょう。
関根 Doconomy社は我々と同じく、生活者の消費活動をベースにした可視化に取り組む会社です。同社は、カードの決済情報から、その商品のCO2排出量を計測するツールの提供などをおこなっています。また、広告界のオリンピックともいえるカンヌライオンズで、SDGs部門2連覇を達成するほど、マーケティングに長けています。可視化にあたり世界中のツールを検討し、Doconomy社をパートナーとして選定しました。
――デカボスコアの算出方法について簡単に教えてください。
和田 デカボスコアは、対象製品のカーボンフットプリントと、比較対象製品のカーボンフットプリントを比較する形で算出します。カーボンフットプリントとは、サプライチェーン上におけるCO2排出量を算定したものです。
カーボンフットプリントの算出は、企業の皆さまより、製品に使用している原材料や、輸送方法、製造方法などについてヒアリングや質問票を通して収集した情報を、Doconomy社が開発したISOに基づくMethodology(方法論)を具備している計算機にインプットし、同社のコンサルタントと連携して行っています。企業が独自に算定しているわけではなく、第三者が介入することで生活者から見た際の信頼性を高められると考えています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業部 新事業開発室 和田佑介。2009年新卒にて三井物産入社。入社後10年間は国内・米国・東南アジアの不動産事業に従事。2019年に人事総務部にて新卒・キャリアの採用業務を担当。その後、エネルギーソリューション本部に異動し、生活者×脱炭素の領域にて事業開発を行うべくEarth hacks Projectを担当中。
――比較対象の製品は、どのように選定されているのでしょうか。
和田 比較対象については、対象商品においてなされた脱炭素への工夫をおこなっていない製品を選定しています。またその比較対象の選定もDoconomy 社のコンサルタントと共にレビューをしています。また、日本政府の脱炭素化に向けた目標が「2030年までに温室効果ガスを46%削減する(2013年比)」とされていることから、2013年時点で既に時代遅れとなっていた取組みは比較対象としないことにしています。比較対象についての情報も、Earth hacksのホームページで確認が可能です。ホームページには、デカボスコアを導入している企業のアイテム一覧を掲載し、比較しているアイテムと導入アイテムそれぞれのCO2排出量・計測ツール・計測年月を表示しています。

メーカーではない三井物産と博報堂だからできること

――Earth hackに関しては、三井物産と博報堂が手を組んだことも特徴かと思います。
関根 両社それぞれの顧客基盤、ネットワークが、Earth hacks事業の立ち上げにおいて大きな助けとなりました。どちらもメーカーではないので、第三者的な立場としてデカボスコアなどに信頼性を与えることができる点もメリットだと思います。というのも、メーカーが独自に取り組むと「自社調べ」になりますから、サステナビリティに強い関心を持つ生活者からの視線は厳しくなります。そこに信頼性を与えることができるのは、商社や広告代理店ならではのことだと思います。
――第三者が運営しているからこそ、企業側も競合関係なく参加できるわけですね。しかも、すでに名だたる企業が多数参加されています。
和田 新しい試みにおいては、業界最王手が導入しているなど、誰が利用しているかが普及拡大に大きな価値を持ってきます。デカボスコアは、ほとんどのメーカーに「利用したい」と言っていただけますが、なかでもトヨタが導入してくれたことが大きなターニングポイントになりました。
吉井 デカボスコアのお披露目となった「Earth hacksマルシェ」に、トヨタ社内で活動している「アップサイクル・プロジェクト」が参加してくれました。これは、製造時に出るシートやエアバッグの端材などをアップサイクルして、革小物やバッグを作るといった、トヨタ自動車の新規事業開発部が取り組むプロジェクトです。端材をリサイクル活用することで、環境負荷を減らすことに貢献できるわけです。トヨタの「自動車」にデカボスコアを導入するにはまだハードルが高いですが、このような取組みであっても、大企業に参加いただけると普及に弾みがつきます。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業部 新事業開発室 吉井理比古。2015年新卒にてトヨタ自動車に入社。入社後3年間R&D部門で予防安全技術の研究開発に従事。2018年にINSEADへMBA留学。その後、トヨタ自動車の新事業開発部門に移動。新規事業の立ち上げを経て社内起業制度の運営業務を担当。2022年5月から三井物産に出向中。
――「Earth hacksデカボチャレンジ2022」という学生との共創プロジェクトもやられていますね。
吉井 日本を代表する企業11社から、それぞれサステナブルや脱炭素につながる商品や新規事業の課題が出題され、学生たちがチャレンジする企画です。いわばインターン  × ビジネスコンテストのようなもので、学生からは何千人という数の応募があり、そこから約130人が選ばれてチームをつくっていきました。
――これをなぜやろうと思われたのでしょうか。
和田 Earth hacksは、生活者の脱炭素アクションを促す「共創型プラットフォーム」です。生活者の共感を得られる脱炭素アクションを考えるには、生活者自らが企画を行うほうが良いということで、未来を担うZ世代と一緒にサービスをつくろうという考えです。すでに参加した4社から、学生の提案をもとに4つのプロジェクトが検討され始めています。
また、このような取組みに参加いただいた学生が、脱炭素に関心を持ち、将来カーボンニュートラルアンバサダーの機能を果たすようになれば、脱炭素化もさらに進んでいくことが期待されます。

カーボンニュートラルは手段であって目的ではない

――それはすごいですね。今後もさまざまな取り組みをされていくと思いますが、Earth hacksの活動を通じて実現したい未来とは、どのようなものでしょうか。
関根 「2050年カーボンニュートラルの実現」が世界的な目標として認知されています。脱炭素社会の実現は、長きにわたって生活者が幸せな生活を送るために、対処していかなければならない重要な課題だと思います。一方で、我々は、生活者の幸せがまずあって、その手段としてカーボンニュートラルの実現があると捉えています。つまり、カーボンニュートラルの実現は、手段であって目的ではありません。
生活者の目線で「これまで以上に笑顔あふれる生活を送るために、カーボンニュートラルを目指す」。その目標に向かって私たちは活動を続けていきたいと考えています。
――あくまでも生活者が主役ということですね。今後の取り組みに期待しております。本日はありがとうございました。

関連リリース

View More

関連ソリューション

関連する記事

ご質問やご相談など、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォームはこちら