人流ビッグデータを通して環境に優しい未来の街づくりをサポート
人流ビッグデータの分析と活用を通じて、街づくり、建設・不動産、モビリティ、マーケティングなど幅広いビジネスをサポートする株式会社GEOTRA。人流データの特徴や活用方法、脱炭素社会の実現に向けた関わりについて伺いました。
三井物産とKDDIのジョイント・ベンチャーとして2022年5月に創業を開始した株式会社GEOTRAは、「データの力で社会を前に進める」というミッションを掲げています。具体的には、人流データを通じて、住みやすい街づくりや公共交通の効率化などに貢献していくということです。この取り組みは、CO2排出量の削減にも寄与します。株式会社GEOTRAに、同社が誕生した経緯や、人流データの可能性について伺いました。
人流分析で都市の状況を正確にとらえ、導入効果を定量的に検証
──人流データを分析する「GEOTRA」が生まれた経緯からお聞かせください。
陣内 三井物産に入社してから、都市を効率化してよりよい都市を創る「スマートシティ」に興味を持ち、その文脈で新しい事業を模索していました。不動産デベロッパーや地方自治体など、いろいろな方にお話を伺いましたが、共通していたのは「そもそも、いま街で何が起きているかが分からない」ということでした。そこで「都市の状況を把握するために必要な情報とは何だろう?」と考え、人の動き「人流データ」に注目しました。これが事業を始めた最初のきっかけです。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業部 陣内寛大。2018年入社。入社後、経営企画部のデジタルトランスフォーメーションチーム(現・デジタル総合戦略部)にて、DX関連事業立ち上げや全社DX戦略の策定等を担当。2020年よりスマートシティ等の新規事業開発に従事し、2022年5月にKDDI株式会社とともに、株式会社GEOTRAを設立。代表取締役社長を務める。
──街で起きていることを把握できると、何が可能になるのでしょうか?
陣内 スマートシティでよく検討されるテーマとして、「自動運転」や「エネルギーマネージメント」の導入などがあります。多くの都市でその実証実験がおこなわれますが、導入後の都市への影響がわからずに二の足を踏む都市もあります。自動運転を導入すれば、「既存の公共交通はどうなるのか?」「タクシーの運転手が都市からいなくなるのでは」といった具体的な議論になった途端に、議論が進まなくなるといったことが良く起こります。
これを精度の高い現状把握やシミュレーションにより解決するのが「人流データ分析」です。人流データは、都市を構成する人流を通して、都市の状況を正確にとらえ、またそのデータを用いたシミュレーションにより、こういった施策の導入効果を定量的に検証することができます。
──KDDIとパートナーシップを結んだ理由を教えてください。
陣内 人の移動に関するデータは、携帯電話を経由して取得することになりますが、そのデータを保有するのは通信会社です。そこでKDDIに共同事業の提案をおこないました。2020年の夏頃のことです。通信会社各社は、以前から人流データの収集・分析をおこなっていましたが、スマートシティの文脈で一歩踏み込んだ事業提案、活用方法をおこなうことで、検討から2年で株式会社GEOTRAの設立に至りました。
ある人が家を出てから帰るまでをトレース。属性も把握可能
──GEOTRAの人流データは、交通量調査のようなものとはどこが違うのか教えてください。
陣内 交通量調査は、特定の地点にどれくらいの交通量があるかを断面で捉える調査です。これに対し、人流データは、ある人が家を出てから帰るまでをトレースして得られるデータです。これをトリップデータと呼びますが、何時にどこにいたのか、またどのような経路でそこにたどり着いたのか、その生活導線までがわかるものになっています。加えて、居住地・性別・年代といった属性データも取得できますので、高度な分析が可能となります。
──このような人流データの分析は、GEOTRA以外の企業は取り組んでいないのでしょうか。
小島 人流データの活用は欧米が先行しています。欧州では都市工学が発達しており、人流データが積極的に活用されています。ただし、プライバシーの面からデータの扱いに厳しく、扱えないデータが日本よりも多く存在します。米国では、例えばGoogle系の会社やUber等のテック企業を中心に、人流データに基づくソリューション開発がおこなわれています。我々がこの事業を検討する際には、米国のケーススタディをおこないました。一方で、中国を除けば日本はアジアにおいて人流データの活用が先行しています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業部 小島拓也。2019年入社。入社後、プロジェクト本部及びエネルギーソリューション本部にて、中国・インドネシア等アジアにおける屋根置き太陽光発電事業を始めとする、分散電源事業の事業管理・新規事業開発等を担当。2022年5月に株式会社GEOTRA に出向、経営企画部に所属。コーポレート業務全般・営業活動支援をおこなう。
人流データ×機械学習によりプライバシーの問題を解決
陣内 国内で人流データを扱っている企業はいくつかありますが、弊社のような人流データの扱い方をしている企業は、日本国内ではおそらく他にないと思います。トリップデータはプライバシー性が高いもので、データをそのまま外部に提供・販売することができません。したがって、個人が特定されない形に加工されて情報として提供されるのがこれまででした。
例えば「新宿駅の利用者は30万人で、そのうち男性が55%で女性が45%」といった具合です。一方で、街づくり等の領域に人流データを利活用するうえでは、「渋谷区在住の30代の男性が大手町に出社して、日比谷で昼食を取り、新橋で飲んで帰る」といった一人一人のトリップデータが分析可能である必要があります。このようなデータをプライバシーに配慮した形で利用する方法を考え、技術開発をおこなってきました。
──GEOTRAは、どのようにプライバシーの問題を解決したのか、お聞かせください。
陣内 人流データに機械学習技術を掛け合わせる事で、「渋谷区在住、大手町勤務の30代の男性は、30%の確率で金曜日の夜に新橋に行く」というような移動パターンが見えてきます。これをペルソナと確率論に基づき、コンピュータ上にバーチャルで再現します。人の動きに関するデジタルツインを作るようなものです。確率論に基づく挙動は現実社会に限りなく近くなると同時に、一人一人のトリップデータをペルソナと確率論にバーチャル転換していますから、プライバシーの確保も可能となるわけです。
人流データを通じてCO2排出量の可視化を実現
──ここで得た人流データが、どのように街づくりに貢献し、CO2削減に寄与するのでしょうか。
小島 スマートシティに関連する人流データの活用は、多くは交通分野でおこなわれています。街全体でのCO2排出量や、施設や工場からのCO2排出量は比較的把握しやすいですが、例えば「都市に流入してきた自動車が、その都市でどれくらいのCO2を排出したか」を把握するのは困難です。これを人流データから計測した事例もあり、このような細部に至るCO2排出量の可視化も、人流データを通じておこなうことが可能です。
──CO2排出量の可視化を、CO2削減につなげるにはどうすればいいでしょうか。
小島 巡回バスの運行ルート最適化などは我々が得意とするところです。人流データを用いたシミュレーションによって運行ルートを最適化すれば、渋滞緩和、運行距離の削減、燃費最適化や、公共交通の利用者が増えることで自家用車の利用が減るなどを通して、CO2の排出量が削減されることにつながります。実際に、バスの需要量の分析や最適巡回ルートの分析などに多くの要望をいただいています。
GEOTRAを使用し、鳥取県鳥取市周辺の交通量を可視化したデータの例。
──2022年5月に立ち上げて、事業をスタートして感じた手応えや課題をお聞かせください。
陣内 おかげさまで、想定していた以上に多くのプロジェクトで人流データを活用いただいています。多くのプロジェクトをご支援するなかで、人流データにさまざまなニーズや使い方があることがわかり、お客様が持つスマートシティに関する施策の効果を、人流データを用いて幾重にもシミュレーションしています。現在はGEOTRAが人流分析を請け負うことも多いですが、これをお客様が直接おこなえるようになると、必要な情報により素早く、正確にアクセスできるようになり、人流データの活用がさらに広がっていくことが期待されます。
小島 お客様との対話を通じて、人流データを活用するアイデアがいろいろと生まれることもあり、人流データの将来性を感じています。私たちはこれを通して街づくりをサポートしているわけですが、自分たちでもあるべき街づくりの姿を描き、提案していけると良いと思っています。
訪日外国人の消費行動などマーケティングとしての活用も
──今後、GEOTRAで挑戦してみたいことを教えてください。
陣内 街づくりや建設、交通といった分野に人流データを活用することは、日本では比較的まだ新しい取組みです。人流データを提供するだけではなく、データの使い道を示唆し、データの価値を感じていただくことが重要だと思います。国内がある程度固まったら、アジアへの展開も想定されます。三井物産とKDDIが持つ海外ネットワークを活かし、海外展開も臆することなく進めていきたいと思います。
小島 将来的には、人流データに決済データや外国人データを組み合わせ、データの幅を広げていきたいと思っています。これにより、富裕層や外国人の挙動を捉えることができるようになり、街づくりのみならず、企業のマーケティングなどへも活用が広がることが期待されます。すでに最初のステップとして、SCSKが有する「訪日外国人(インバウンド)行動データ」を追加しました。このデータは、訪日外国人旅行客向けショッピングサポートアプリより取得しているため、訪日外国人の消費行動に関して「いつ」「どこで」「誰が」「何をした」といった情報がわかります。
──観光、建設、街づくり、行政、CO2の見える化と削減など、人流データが幅広い分野で活用できることに驚きました。
小島 弊社の取り組みではありませんが、米国のWeWorkは人流データを活用して、ニューヨーク州に補助金制度を提案する試みをおこいました。それは、自宅から一番近いWeWorkを無料で利用できるようにすれば、自動車の利用が減り、1日で街路樹4,000本が吸収する分のCO2を削減することができるというものです。
陣内 多くの自治体が、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています。街づくりの観点では、現在は再開発を目的とした人流データの活用が中心ですが、今後は脱炭素化に向けた人流データの活用が増えてくると思います。
──脱炭素に向けた意識が高まれば、GEOTRAは大いにCO2削減に貢献できるということですね。本日はありがとうございました。
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