山梨県 × 金融機関 × e-dashが目指す 中小企業の脱炭素支援
山梨県では県内の中小企業などに向け、CO2排出量の可視化および削減サポートサービス「e-dash」を活用した「やまなしCO2見える化トライアル」を実施しています。脱炭素への取り組みに向けた県の思い、金融機関の役割、e-dashだからできることなどを伺いました。
2009年、山梨県は全国に先駆けて「2050年CO2ゼロやまなしの実現」を宣言。2021年には全国初となる、県内すべての市町村共同で「やまなしゼロカーボンシティ宣言」を実施しました。その施策の中で生まれた「やまなしCO2見える化トライアル」、その狙いはどこにあるのでしょうか。
多くの企業に「CO2見える化」の効果を実感してもらいたい
――山梨県では、CO2排出量の見える化のみならず削減提案も無料で受けられる「やまなし CO2見える化トライアル」を実施されています。県内の中小企業などを対象としたものですが、実施された背景や理由を教えてください。
武川 山梨県では、2030年度の温室効果ガス排出削減目標をマイナス50%(2013年度基準)と設定し、取り組みを進めてきました。その一方、山梨県の産業規模は99.9%が中小企業ということもあり、まだ様子見という会社が多いのが現状です。
そこで、より多くの中小企業の方に「CO2排出量の見える化」の第一歩を踏み出していただきたく
「やまなし CO2見える化トライアル」を実施することにしました。この機会を通じて多くの企業に効果を実感していただき、翌年以降はそれを実績としてPRしながら広めていきたいと考えています。
参考にしたのは、宮崎県がe-dashと取り組まれている
「ゼロカーボンひなたチャレンジ」でした。
武川 裕一郎|むかわ ゆういちろう
山梨県 環境・エネルギー部 環境・エネルギー政策課 主任
2015年入庁、土木や福祉の部署を経験した後、民間シンクタンクに出向し、脱炭素に関する業務に従事。県庁に帰任後は、環境・エネルギー政策課にて地域脱炭素推進に向けた事業の企画・実行に従事
――山梨中央銀行は、このトライアルにどう関わっているのでしょうか。
宇佐美 今回のトライアルは山梨県内の中小企業を対象としておりますが、弊行はそこに対して約6割のシェアがあります。また、弊行のみならず、山梨県を拠点とするすべての金融機関が関与しているのでより多くの企業にリーチでき、このプロジェクトを幅広く紹介する役割を担っています。
宇佐美 裕規|うさみ ゆうき
株式会社山梨中央銀行 地方創生推進部 山梨未来創生室 室長代理
2011年入行。山梨県、神奈川県、東京都内店舗において法人融資・法人新規開拓業務に従事。2022年6月に新設された地方創生推進部において、地域課題解決に向けた新事業開発・新会社の設立に取り組む
――金融機関が積極的に関与する理由はどこにあるのでしょう。
宇佐美 先ほど、山梨県の99.9%が中小企業というお話がありましたが、その多くは、まだサプライチェーン企業からのCO2削減要請がありません。そのため、脱炭素に向けた取り組みに対して、あまり熱が上がっていない状況です。しかし、CO2削減要請はいつ来てもおかしくない状況ですので、早めに取り組んでいただきたいという思いがあります。
もうひとつは、山梨県の企業・産業のブランド価値向上です。これからの時代、環境への取り組みは付加価値のひとつになっていきます。その点を中小企業の方々にもご理解いただき、CO2見える化に取り組むことで、企業価値向上へつなげていただきたいと思っています。
――山梨県から誘いを受けたときは、どう思われましたか?
宇佐美 とてもありがたかったです。脱炭素を県内・地域内で進めるうえで、 弊行が単独でやってもなかなか広まりません。山梨県が旗振り役になってくれることで、他の金融機関だけでなく、商工団体や業界団体など、いろいろな関連団体が集まってくる。そうやって各種ステークホルダーと一緒に取り組むことが、脱炭素化への近道だと考えています。
※脱炭素の取り組み方法について詳しく知りたい方は「脱炭素の正しい進め方と考え方」をご覧ください。
機械・電子産業、観光業、果樹が栄える山梨県
――先ほど、中小企業が99.9%という話もありましたが、山梨県内の産業構造やCO2排出量の構成を教えてください。
武川 山梨県は水が綺麗な場所ですので、古くから水晶の研磨技術が栄えてきました。現在はそこから派生して、ファナックやエレクトロンといった企業を筆頭に、機械・電子産業が盛んです。その他、富士山など自然豊かな土地を活かした観光業や、それにまつわる飲食業。あとは果樹ですね。とくにワインはブランド価値が高まっており、輸出を増やす取り組みも進んでいます。
CO2排出量の構成は車社会ということもあって、全体の約35%が運輸部門。それ以外では、産業部門が約20%、業務部門が約20%で合わせて約40%。家庭が17%、残りは廃棄物となります。
e-dashはUI、価格、信頼性、サポート体制において優れている
――脱炭素に向けた取り組みの第一歩として、CO2排出量の可視化を促進していく。その際に、なぜe-dashを選ばれたのでしょうか?
武川 まずは、公募型プロポーザルにて各事業者に手を挙げていただきました。その後、委員会で提案内容が評価されたわけですが、まずはUIが優秀で使いやすい点が挙げられます。さらに導入コストも安く、月額1万円程度で利用できるため続けやすい。また、大手監査法人による第三者認証を受けているため、適正な算定が可能になるという信頼感もあります。
その他、e-dashは自治体との連携事例も増えており、我々の事情や動きを理解してくれている点も魅力でした。
――金融機関から見た、e-dashの魅力はいかがでしょう。
宇佐美 重複しますが、安価であることは大きな利点だと思います。中小企業にとっては、明確な目的が見えない中で月に何十万円も支出することはできません。
また、請求書の画像データをアップロードするだけでCO2排出量を可視化できる「簡便さ」も魅力かと思います。現在、どこの中小企業も人手が足りておらず、環境系の担当者はほぼいません。経理担当が兼務する例が多いかと思います。そんなとき、手間なく簡単という部分は、「継続性」においても大きなメリットになります。
それに加え、サポート体制が充実していることも魅力です。「やまなしCO2見る化トライアル」では、申し込み前にオンライン説明会に参加いただくのですが、「なぜ取り組むべきなのか」をe-dashに啓蒙いただいています。
――e-dashとしては、どんな点が評価されていると感じますか。
清野 先ほどからお話があるように、「地域の脱炭素化がなかなか進まない」という課題は多くの自治体がもたれています。さらに、自治体としても「どう脱炭素をしていくのか?」という点で悩まれています。
その後押しをしてくれる役割として、各社の経営に寄り添っている地域の金融機関が重要だと我々は考えています。当社は200を超える金融機関と連携しており、自治体と一緒になってご支援することができる。そこは強みかと思います。
清野 隆|せいの たかし
e-dash株式会社 パートナーサクセス部
2010年より、デベロッパーにて省エネ法報告等の環境関連対応に従事。2016年から電力小売事業にてCO2フリープラン電力等の企画営業に従事。2020年からはサービス業の事業会社にて、scope1~3のGHG排出量算定、TCFD宣言、ESG評価機関対応などESG推進に従事。2023年よりe-dash株式会社にて、自治体等と連携した地域の複数事業者のCO2排出量の可視化・削減支援プロジェクトの組成・実行や、プライム上場企業等の大規模顧客向けの商談及びサービス履行に従事
――改めて、「やまなし CO2見える化トライアル」の流れを教えてください。
武川 まずは、お申し込みの前にe-dashのオンライン説明会に参加していただきます。お申し込み後、e-dashを使ってCO2排出量の可視化をしていただく。可視化がひと通り済んだ後は、e-dashから削減方法を提案いただくという流れです。
その後も、山梨県がバトンを受けて設備更新に活用可能な補助金をご紹介すること等に加えて、地域の金融機関や商工団体、設備工事業者の皆様とも連携しながら、様々なご支援を提供していけないかと考えています。
山梨県の方言には、みんなで寄り合い集まることを意味する「よっちゃばる」という言葉があります。まさに関係するステークホルダーの皆様と「よっちゃばって」、地域の脱炭素を進めていきます。
コスト削減を皮切りに、中長期的な付加価値の向上を目指す
――脱炭素化への取り組みを促進させるにあたり、中小企業の方々へはどんなPRが効果的だと思われますか。
武川 「脱炭素の取り組みには、お金がかかるんでしょう?」というのが一般的なイメージかと思います。そうではなく、エネルギーコストが削減されて経営が改善する、結果的にはそれが脱炭素につながるという文脈は効果的だと考えています。
そのためにも、可視化をして終わり、太陽光発電を導入して終わりではなく、経営におけるメリットが生まれるところまで併走し、成功体験へと導くことが大事だと考えています。
清野 山梨県はその「プラスα」に注目されている点で、他の自治体よりも先進的です。「やまなしCO2見える化トライアル」のチラシにも、「コスト削減から脱炭素につなげよう!」と書かれており、コスト削減も含めてトータル的にやっていこうという思いが伝わってきます。
――コスト削減の先に見据えておくべきことはありますか。
清野 冒頭に宇佐美さんからもお話がありましたが、サプライチェーンからの(CO2排出量)開示要請が、すぐ近くまで迫っているということです。山梨県は観光業が盛んですが、宿泊施設などの大手予約サイトでは、CO2排出量の開示が求められるケースが増えてきています。また、インバウンド(訪日外国人)は、そういった条件で宿泊施設を検索される方々も多い。社会的な要請も生まれてきているということです。
宇佐美 山梨県の特産品である果樹も、近年は卸先である都内外資系ホテルから、CO2排出量の話が出ているとも聞いています。
その一方で、大手企業は環境への取り組みをうまく活用されています。大手酒造メーカーなどは、「山梨の豊かな自然を守る」という文脈で脱炭素化に取り組むことで、消費者にPRするだけでなく、工場の新設などの際、地域住民の方々が受け入れやすい状況をつくりだしています。
清野 e-dashでは、一年間のデータが溜まった段階で「結果」「目標値」「削減目標」までを資料にまとめて各お客様へミーティングと併せてご提供しています。資料の中では、利用画面上でも確認できるスコープ1・2排出量やエネルギー使用量等の推移のみならず、例えばスコープ1はとくにどの燃料由来が多いかや、月々の電気代の相対評価も含めています。それだけでも、お客様にとっては新しい気づきが得られると評価をいただいています。
さらに、SBT(※1)基準に合致する目標設定のサポートも可能です。その目標に対して、省エネ補助金のご紹介、さらには太陽光発電やPPA、山梨県で創出されているカーボンクレジットを紹介するなどして、脱炭素も地産地消ができればと考えています。
※1 企業が設定する「温室効果ガス排出削減目標」の指標のひとつとなる国際的なイニシアチブのこと
※PPAについて詳しく知りたい方は「PPAモデルとは?太陽光発電を初期投資なしで導入できる仕組みを紹介」をご覧ください
※カーボンクレジットについて詳しく知りたい方は「カーボン・オフセットとは?必要性から企業の取り組み事例までを紹介」をご覧ください
――相手に寄り添ったサポートをしているわけですね。山梨県としては、どのような企業に参加してほしいと思われますか。
武川 まずは試してみようということが重要ですが、見える化にプラスして「何かやってみよう」と思っていただける企業の方に参加いただきたいです。
このトライアルを通じてロードマップを作り、中長期的なエネルギーコスト削減の道筋を立てていただく。取引先やお客様へのPR材料として第一歩を踏み出していただく。さらに進んで、脱炭素を起点に新しい事業展開をしていただくなど、成長の機会としてとらえていただければと思います。
宇佐美 東京からの立地も含め、山梨県には多くのポテンシャルがあると考えています。自然の豊かさも再発見されている中、「ゼロカーボン」を新たな価値として加えていきたい。山梨県には「米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ」など水素に関する実証実験場もありますので、今後「脱炭素が進んだ場所で起業したい」と考える人たちの誘致もできれば、県内の産業がさらに活性化されると考えています。
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