SOLUTION

EV化やモーダルシフト、混載トレーラーの普及 脱炭素と人手不足を乗り越える「持続可能な物流」の最前線

ソリューション

2026.06.11

物流は私たちの暮らしや経済活動を支える重要な社会インフラですが、今、その持続可能性が求められています。

「2024年問題」に象徴される労働力不足、さらには脱炭素への対応という大きな転換期を迎えているからです。こうした課題を背景に注目されているのが「持続可能な物流」です。

その歴史や背景、物流業界が抱える課題、企業が進める脱炭素の取り組み、そして今後の方向性について紹介します。

環境負荷の低減は人手不足でも実現できるか

物流は「経済の血液」と言われるほど、私たちの生活に欠かせない機能です。しかし、その物流の持続可能性をめぐって、難しい選択を迫られています。

「持続可能な物流」という言葉が広く使われるようになったのは、この数年のことです。

しかし、環境に配慮した物流という考え方自体は、気候変動への懸念が世界的に強まった1990年代後半から2000年代初頭にかけて広まったとされています。

それに先立つ1990年代前半に「グリーン・ロジスティクス」という言葉が登場しました。

それまでの物流では、効率性やコスト削減が最優先で、環境面への配慮はほとんどなされていませんでした。

しかし、1997年に採択された京都議定書を契機に温室効果ガス削減への関心が国際的に高まり、2000年代初頭には大手企業が環境配慮を物流にも組み込み始めるようになりました。

その後、それは2015年の持続可能な開発目標(SDGs)の採択やパリ協定を経て、脱炭素とESG経営を支えるサプライチェーン改革へと発展したのです。

一方、日本で官民による取り組みが始まったのは2005年です。

この年、経済産業省、国土交通省、日本ロジスティクスシステム協会、日本物流団体連合会、日本経済団体連合会(経団連)の連携により「グリーン物流パートナーシップ会議」が発足。

物流分野のCO₂排出削減に向けて、荷主企業(発荷主・着荷主)と物流事業者が広く連携していくことを目的としています。

そして、「持続可能な物流」という言葉が政策の中心に据えられるようになったのは2022年。国土交通省・経済産業省・農林水産省の3省が合同で「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置しました。

検討会では、物流は国民生活や経済活動を支える不可欠な社会インフラである一方、担い手不足や「2024年問題」、カーボンニュートラルへの対応などにより危機的な状況にあるという認識が示されました。

2024年問題とは、同年4月に施行されたトラックドライバーの時間外労働規制です。

それにより、ドライバーがさらに不足することが2022年当時から予測されていました。

つまり、持続可能な物流とは、環境負荷の低減と、人手不足の中でも物流機能を維持するという二つの課題に向き合う取り組みなのです。

国土交通省の試算では、2030年に最大で約28万人のドライバーが不足する可能性があるとされ、就業者の高齢化も深刻です。物流業界の就業者構成は50代が約3割を占める一方、20代は1割程度にとどまり、人手不足を理由とする倒産も後を絶ちません。

帝国データバンクによると、2024年には人手不足倒産が累計342件発生しましたが、そのうち物流業は46件と全体の約15%を占め、建設業に次いで2番目に多い業界です。

モーダルシフトと燃料電池・EVで克服

一方、物流における環境負荷への影響は小さくありません。

2024年度の日本のCO₂排出量は約9.7億トンですが、国土交通省によると、このうち運輸部門は約1億8,700万トンで、日本全体の約2割を占めています。

物流を含む運輸分野の脱炭素は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて鍵を握る分野となっています。

なかでもとりわけ環境負荷が高いのはトラックです。運輸部門のうち、貨物自動車(トラック)は37.8%に達し、日本のCO₂排出量の7.3%を占めています。

貨物1トンを1km運ぶ際のCO₂排出量を比較すると、航空が103g、船舶が41g、鉄道が19gなのに対し、営業用貨物車は195g、自家用貨物車にいたっては1112gと、圧倒的な差があります。

営業用貨物車は運送会社などが他人の荷物を運ぶ緑ナンバー車、自家用貨物車はメーカーや小売業などが自社の荷物を運ぶ白ナンバー車です。

こうした輸送手段によるCO₂排出量の差から国土交通省が推進しているのが「モーダルシフト」です。これは、長距離輸送を比較的環境負荷の低い内航船や鉄道に切り替える取り組みです。

2023年の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定」では、今後10年程度で、内航海運・鉄道へのモーダルシフトを倍増させる目標を掲げています。

ただし、モーダルシフトには限界があります。

内航船も鉄道も港や駅などの拠点までしか届けられませんし、しかも鉄道は旅客が優先されます。最終的な配送先には、やはりトラックが欠かせません。

また、電子商取引(EC)市場の拡大を受け、商品を消費者まで届ける「ラストワンマイル」が課題となっています。

つまり、トラック輸送における脱炭素も不可欠なのです。

トラックの脱酸素は小型を中心に、事業者がさまざまな取り組みを進めています。

ヤマト運輸では、2024年度末時点でEV4,275台、LPG車、CNG車、ハイブリッド車などを含めた環境配慮車両を4万2,318台運用しています。ヤマトグループでは、2030年までに2万3,500台のEVの導入を目標に掲げています。

これは、全国の集配用のトラック・軽商用車の約60%にあたるとのことです。

日本郵便も積極的にEVの導入を進めています。

三菱自動車によると、同社は2013年から2024年までに5,000台以上のEVを日本郵便に納入。同年にさらに3,000台を受注しています。また、ホンダのEVバイクは2万台以上が導入されているそうです。

長距離を走る大型トラックは、EV化が難しいため、水素を燃料とした燃料電池(FC)トラックの開発が進められています。

西濃運輸やアサヒグループらが手を組むなど、実証実験が各地で行われています。

水素ステーションがまだまだ少ないという課題はありますが、航続距離がEVより長く、水素の充填も短時間で済むため、ディーゼルトラックに近い運用が可能と期待されています。

出典:国土交通省

(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html?utm_source=chatgpt.com)

出典:国土交通省

(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html)

共同輸送や物流DXで輸送効率を最適化 

車両の環境負荷低減だけでなく、輸送の効率化も重要な取り組みです。

『「送料有料」です! 人口減少社会でも持続可能な物流サービス』(森田富士夫著)によると、物流危機の本質は、日本の人口減少による市場縮小にあるといいます。

<分かりやすいたとえをするならば、走れば走るほど赤字が増えるというローカル鉄道と同じです。あるいは路線バスも同様です。乗客が減少すれば、運行コストの方が高くなってしまいます。トラック輸送も同じ原理です>(同書30ページ)

物量が減っているのに、従来の物流網を維持しようとすればコストが上がりますし、輸送量あたりのCO₂排出量も大きく増加します。

そこで各社が取り組みを進めているのが、共同輸送です。これまで企業ごとに別々のトラックで配送していたものを、共同化することで積載率を高め、走行距離や車両台数を削減できます。

たとえば大王製紙とサントリーは、長距離トラック輸送の効率化と環境負荷低減を目指し、関東・関西間での「重軽混載トレーラー」を活用した共同物流の取り組みを2022年より開始しています。

トラックは最大積載量が決められているため、重量物ばかりを積むと、空きができてしまいます。

この取り組みでは、サントリーグループの飲料製品を積んだ後、荷室上部の空きスペースに大王製紙の製品を混載することで、容積・重量ともに積載率を100%に近づけています。

こうした提携だけでなく、物流業界ではM&Aも増えており、規模の拡大と輸送の効率化が加速しています。

また、AIやデジタル技術による輸送の最適化も、脱炭素と労働力不足解消を同時に実現する手段として存在感を増しています。いわゆる物流DXです。

ヤマト運輸は、医薬品卸大手のアルフレッサとのヘルスケア商品共同配送において、ビッグデータとAIを活用した配送業務量予測・適正配車システムを2021年から導入しています。

ヤマトホールディングスによれば、このシステムにより配送生産性を最大20%向上、走行距離とCO₂排出量を最大25%削減するとのことです。

消費者の意識を変えていくことも必要

物流におけるCO₂排出は、輸送由来だけではありません。倉庫や物流センターでも荷役機器や冷蔵・冷凍設備などで大量のエネルギーを消費します。そこで最近では、太陽光発電や蓄電池の導入が進んでいます。

さらには梱包材にも大量の資源を使用するので、脱プラスチック素材への切り替え、リユース容器の導入、梱包の小型化・軽量化などが進められています。

このように物流における脱炭素の取り組みは多岐にわたりますが、それを推進するには、消費者も意識を変える必要があります。

近年、宅配の再配達が大きな問題となっています。

不在による再配達は、ドライバーの負担増加だけでなく、余分な走行によるCO₂排出にもつながります。それらを減らすため、宅配ボックスや置き配を積極的に活用する必要があります。

また、品質に厳しい日本では、箱に少しの傷があるだけで不良品扱いになってしまうことが少なくありません。

過剰な品質要求は、返品や再配送、廃棄の増加につながり、環境負荷を高める要因にもなります。少しの傷は許容するなど、消費者の意識変化も必要です。

このように持続可能な物流は、物流会社だけが取り組むべき課題ではありません。

荷主企業、メーカー、小売業、そして消費者まで含めた社会全体で物流のあり方を見直すことが、脱炭素社会への第一歩となるのです。

※参考URL

ヤマトグループ

https://www.yamato-hd.co.jp/csr/environment/climate_change.html

日本郵便

https://www.mitsubishi-motors.com/jp/newsroom/newsrelease/2024/20240708_1.html

https://trafficnews.jp/post/134055

燃料電池トラック

https://www.seino.co.jp/seino/news/stc/2023/0517-01.htm

ヤマト運輸、アルフレッサ

https://www.yamato-hd.co.jp/news/2021/newsrelease_20210803_1.html

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